【第2回】医療用医薬品の規制と体制整備

赤羽根 秀宜氏中外合同法律事務所 パートナー 薬事・ヘルスケア・医療グループ代表


処方箋なしに処方箋医薬品を販売したとして、薬局に業務停止処分が下されたとの報道を目にすることがあります。報道によると、そのうちの一つの薬局では、医療用医薬品のうち、処方箋医薬品以外の医療用医薬品については従業員への販売を認めていたそうですが、処方箋医薬品についても従業員に販売を行ってしまったとのことでした。

この事例を見ると大きく二つの問題がありそうです。

一つは、従業員が法令を正しく理解できていなかったことです。企業においてコンプライアンスを実現するためには体制やルールを作ることも重要ですが、各個人がその重要性を意識し法令を理解しておくとも重要になります。そのためには研修等も必要であり、令和3年8月1日施行の改正薬機法における薬局のガバナンスの強化では、教育訓練の実施が求められます。

今回問題となるのは医療用医薬品の法的な規制ですが、医薬品は下図のように分類されます。このうち医療用医薬品には、処方箋医薬品とそれ以外の医療用医薬品があります。

処方箋医薬品については、原則処方箋がなければ販売することができません(薬機法49条1項)。「正当な理由」がある場合の販売は認められますが、「薬局医薬品の取扱いについて」(薬食発0318第4号 平成26年3月18日厚生労働省医薬食品局長)で示されているとおり、大規模災害時などかなり限定されていますので、基本的には処方箋が必要と考えておかなければなりません。一方、処方箋医薬品以外の医療用医薬品についても、通常の薬局業務では、処方箋に基づいて調剤していると思いますが、法律上は処方箋がなくてもルールに従えば薬局で販売することが可能となります。

このような医薬品の販売は「零売」などと言われ、最近では積極的に専門で行う薬局もあるようです。ただし、前記「薬局医薬品の取扱いについて」では、処方箋医薬品と同様「正当な事由」が認められる場合に販売することが原則とされているため、販売していない薬局も多いのではないでしょうか。なお、販売するとしても、原則使用者本人にしか販売ができない、販売数量の限定などのルールが定められており、尊守する必要はあります。医療用医薬品のルールは分かりづらいところもあるので、この機会に確認しておくといいでしょう。

もう一つの問題は、企業としては、法に従ったルールを作っていたのにも関わらず、そうではない運用がされており、それを監督し、問題があれば是正する体制がなかった(又は機能していなかった)ことです。コンプライアンスのために法に従ったルールを作っておくことは重要ですが、それに従って実施する体制や、それをモニタリングして問題があれば是正する体制も必要です。

正しくルールを作ってもそれが正しく運用されなければ意味がありません。薬局のガバナンスの強化では、法令遵守のために監督体制の整備も求められますので、このようなモニタリングの重要性も意識しておく必要があります。