【POINT.2】一方的に教えるのではなく、まず“普段のやり方”を確認することが大事

山﨑 徹 氏薬局ニコニコ(東京都江戸川区)

前職での薬剤師研修・教育スキルを在宅患者の“指導”にも反映

「インスリンの針を装着する時に針が折れてしまう」という事例がありました。そこでまず、患者さんにいつものテーブル、椅子で普段通りのやり方で装着してもらいました。その状況を確認した上で、「このテーブルの、この位置でインスリン本体をスライドさせて針を装着します」と、具体的なアドバイスをした結果、針は折れることなく適正に使用できるようになりました。ヘルパーには、インスリン使用時の体勢などの注意点を共有した上で、見守ってもらうこともあります。普段のテーブルの高さの違いなど踏まえ、それぞれの生活に応じた服薬指導がすごく大事だと実感しました。

 「やってみせ、言って聞かせてさせてみて、誉めてやらねば人は動かじ」という山本五十六の言葉があります。前職では教える、トレーニングする立場でしたので、人材育成において参考にしていました。

在宅現場でも、ふとその言葉が浮かび、一方的に教えるのではなく、やらせてみることが大事でないかと思いました。まずは、じっと我慢して見守ることが大事です。そのなかで、「ここがいけない」「あれもいけない」「こうしなければいけない」ということが出てきます。ただし、服薬指導では、“今日はこれくらいにしておこう”という見極めが重要ですので、少しでも改善するよう我慢が必要です。前職での薬剤師教育や研修を指導する際のスキルが、在宅患者さんへの対応に活きているのかもしれません。

身近な関係者に向けて焦点絞った見守りポイントや情報提供と認識を共有

糖尿病患者が治療中に、一般的には発熱や下痢、吐き気をきたし、または食欲不振のために食事ができないなど、一過性の急性疾患の状態をシックディと呼びますが、前職の時に啓発用のツール作成に関わりました。

ところが在宅現場では、「(シックディの時は)こう対処しましょう!」と言ったところで覚えていない。特に認知症の方には無理ですし、啓発用の資材を渡しても失くしてしまいます。そこでヘルパーやご家族など介護者がシックディに気づける資材を考えました。

「ツール」といえるほどの物ではありませんが、一枚紙に「糖尿病のお薬を服用中です」と、まず大きく知らせる案内を記し、飲んでいる糖尿病薬の外観の図解を載せました。ポイントは、「食事がとれないとき」「下痢、嘔吐があるとき」「腹痛があるとき」には連絡をしてほしいとの注意喚起の文言を盛り込んだところです。

私の連絡先を明記し、余白には、例えば「ヘルパーさん お気づきのことがありましたら、ご連絡ください」と手書きのメッセージも添えて、身近な介護者と情報共有するようにしています。あくまでもヘルパーやご家族向けなので、あまり細かい注意事項や留意点などは書き込まないようにしています。逆にそれが混乱を招いてしまう可能性もありますので。 

訪問看護師との連携事例としては、ある時、訪問看護師から、ある患者さんの下痢が続いているとの情報が入りました。断片的な情報でしたが、多分の下剤の飲みすぎだろうとは思いましたが、その患者さん宅には電話がなく、直接会わなければ様子が分かりません。そこで直ぐに訪問し、食事状況などを確認しました。私は糖尿病療養指導士の資格を持ち、シックディも勉強していたので、食欲ありなどの状況からシックディではないだろうと判断しました。主治医には、2種類出ていた下剤を一旦ストップしてもらうよう連絡しました。その結果、糖尿病薬を継続することができました。

この他に食事のサポートを重視しています。気持ち悪くて、食欲がないという状態では薬物療法に影響します。ちゃんと服薬を続けるため、一般的には例えば、「乳製品いいですよ」と勧めますが、私はもう一歩踏み込んで、「息子さんが買いに行けますか?」「ヘルパーさんにお願いできますか?」と、誰が何時、どのように購入するかまで注意を払いながら、個別具体的にアドバイスするようにしています。

未だ個人在宅に取り組んだばかりですので、まず、今いる仲間たちと、今後もこの領域を成長させたいと強く思っています。また、日本くすりと糖尿病学会の会員でもありますので、是非、在宅における糖尿病患者への介入について報告したいと思っています。