赤羽根 秀宜氏中外合同法律事務所 パートナー 薬事・ヘルスケア・医療グループ代表


令和3年8月1日施行の薬機法改正によって、薬局に関して「責任役員」が法律上明記されます。責任役員とは、薬局開設者が法人である場合の「薬事に関する業務に責任を有する役員」です。責任役員は、薬事に関する法令遵守について責任を負う立場にあり、法令遵守体制の構築及び運用を行わなければなりません。なお、この責任役員が「薬局開設者の業務を適切に行うことができる知識及び経験を有すると認められない者」である場合には、薬局の許可がされないことがあります。

責任役員は、「『薬事に関する業務に責任を有する役員』の定義等について」(薬生総発0129第1号、薬生薬審発0129 第3号、薬生機審発 0129 第1号、薬生安発0129第2号、薬生監麻発0129第5号 令和3年1月29日)において、「各許可等業者において、各役員が分掌する業務の範囲を決定した結果、その分掌する業務の範囲に、薬事に関する法令に関する業務(薬事に関する法令を遵守して行わなければならない業務)が含まれる役員」とされています。責任役員として指名・選任をすることできまるのではなく、分掌する業務の範囲によって該当性が決まるという点に注意が必要です。また、薬機法施行規則の改正の際のパブリックコメントにおいて、「薬機法の許可に係る業務を担当する」のではなく、「薬事に関する法令に関する業務を担当する」かどうかにより判断されているとしています。行政に対する手続き業務を行うということではなく、薬事に関する業務を担当するか否かで決まることになります。なお、「薬事に関する法令」とは、薬機法、麻薬及び向精神薬取締法、毒物及び劇物取締法、薬機法施行令第1条の3各号 に規定する薬事に関する法令(覚醒剤取締法、薬剤師法等)とされています(前記通知)。

その上で責任役員は、株式会社では、「会社を代表する取締役及び薬事に関する法令に関する業務を担当する取締役」(※指名委員会等設置会社については、会社を代表する執行役及び薬事に関する法令に関する業務を担当する執行役)と示されています(前記通知)。法令上の役員ではないいわゆる執行役員については、責任役員に該当しないので注意が必要です。

パブリックコメントにおいては、「薬局開設法人の代表者や役員が率先して、法令違反を薬剤師に指示する場合、当該法人には必要な行政処分が行われるという理解でよいか。」「 薬局開設法人が法令違反した場合、当該法人の代表役員が『知らなかった』等と言い逃れできず、当該法人には必要な行政処分が行われるという理解でよいか。」「薬局において、エリアマネージャーの不適切な行為によって法令違反が生じた場合には、エリアマネージャーを選任した薬局開設者の選任責任が問われるものであることを明確にすべき。」等の意見に対し、「今般の改正に伴い、薬局等において、責任役員を中心として適切な法令遵守体制の整備が義務化されることも踏まえ、御指摘のような事案が発生した場合には、適切に改善命令や業務停止命令等の行政処分を行います。」と回答がされています。問題が起こった場合に法令遵守体制の整備・運用が適切にされていなければ厳しい処分となることも想定されます。特に責任役員はその責任は重く、薬機法改正に向けた議論では法令違反時には役員変更命令の法定化も議論されています。実際には今回の改正では法制化はされませんでしたが、衆参両院とも付帯決議において、改正後の状況をみてこの変更命令を法定化について検討することとしています。責任役員の責任のもと、法令遵守体制の構築・運用を行っていく必要があります。