【POINT.3】大切なことは「患者さんの気持ちを楽にする」メリハリある服薬指導

栗原 鑑三 氏みわ薬局/精神科薬物療法認定薬剤師

お薬手帳から精神疾患を見出し、包括的指導の一環として実績拡げる

精神疾患は2011年、医療計画に記載すべき五大疾患の一つにされたときから、特別な疾患ではなく、誰しも突然訪れる可能性がある疾患に位置付けられました。

私(鑑三氏)が2年前にこごみ薬局から、みわ薬局に異動した際は、処方箋の8割以上が隣接の耳鼻咽喉科でしたが、現在は6割程度に推移しています。その理由は様々ありますが、最終的には目の前の患者さんに対する包括的な服薬指導を積み重ねてきた影響が大きいと思います。特に、精神疾患の処方箋はほとんど応需していませんでしたが、現在では遠方の病院からも応需することが増えてきました。

お薬手帳の併用薬から、精神疾患の有無と重症度は推測できますが、十分な信頼関係が得られていない状態で突然メンタル不調に関して触れることはリスクがあります。患者さんが風邪をひいて体調を壊した時、毎年の花粉症の薬をお渡しする時など、いつもの服薬指導に雑談でもいいので何気ない会話を集めていき、次第に運動療法や食事指導、睡眠衛生指導などを混ぜ合わせながら、薬物療法全体として包括的に説明し、十分なコミュニケーションがとれていく関係性をつくることが重要です。例えば、「朝ご飯は、食べれていますか?」「実は、朝は起きれなくて・・」「もしかすると、睡眠薬の影響があるかもしれませんね」と、本題につなげてきます。

さらに、五大疾患の一つに糖尿病もあります。特に向精神薬の一部には耐糖能障害のリスクがありますが、元々、睡眠が乱れやすいことが糖尿病のリスクになります。正確さを欠いた乱暴な表現ではありますが、精神疾患があることで睡眠不足の患者さんは、糖尿病予備軍という見方もできます。こうした背景から、薬局では一つの症状だけでなく、包括的に患者さんの現状を観ていくことが大切です。

その患者にとっての「主剤」を伝え、「涵養」「伝えすぎない」を心掛ける

精神科の場合、病識のある初発の人は、「もう自分は治らないんだ」と落ち込む方が多いのですが、私は単純にメカニズム説明に注力しています。例えば、「いまは脳内にセロトニンという物質が足りないので、少し気分が落ち込んでしまう」「薬はその足りないものを補ってあげるのです」「気持ちで頑張るのではなく、もっと薬任せにしても良いと思います」など、物理的な問題として説明します。そのことで患者さんの気持ちが、少しでも楽になってくれればと思っているからです。

また、例えば処方されたお薬を上から順に単調に指導すると、剤数が多い場合は誰でもパンクしてしまいます。そのため、その患者さんにとってどの薬が一番大切か、つまり主剤を必ず伝えます。他の薬は調子が良くなれば無くなるかもしれないし、悪くなれば調整として用いる補佐的な薬ということも十分に説明します。メリハリをつけることで患者さんの気持ちが楽になっていると思います。

もちろん薬の副作用にも触れますが、あまり言い過ぎるとノセボ効果により、服薬指導が薬物治療の妨げになってしまうこともあります。「お薬を飲んで手が震えませんか?」「ムズムズしませんか?」「足に虫が這っているような感覚はありませんか?」などと言われると、それが引き金となって、注意説明した通りの感覚を感じ始め、服薬を自己判断で中止してしまうこともあるからです。

そのなかで気を付けていることとして、涵養指導を心掛けています。涵養とは、「自然に水が浸み込むように、徐々に教え養うこと」とされ、相手の様子を伺いながら今日はここまでにして、それ以上は混乱が生じるため、あえて説明しきらないようにしています。

SNSを活用し待ち時間短縮と患者相談の充実、ポリファーマシー解消も

最近はSNSを活用した患者相談にも対応しています。薬局薬剤師は自殺予防のゲートキーパーとしての役割が期待されていますが、特に精神科系の患者さんは自分の話を聴いてもらえる人の存在がいる、ということが非常に重要です。困っている内容を薬と交えてコミュニケーションを深めていくこと、いつでも相談でき、繋がっている薬剤師こそが本当のかかりつけ薬剤師だと考えています。

また、患者さんとの関係が密になると、本来の生活リズムも次第に明らかになりますので、ご自宅での残薬状況も分かってきます。薬局に来られた時に、「お薬は残っていますか?」と漠然としたYES or NOの聞き取りではなく、「このお薬は余っていませんか?」「昼食後の薬は飲めないことも多いですよね?」「そうなんですよ・・」と聞き出しの部分と会話内容を変えることで、残薬調整やポリファーマシー解消にもつながっています。

精神疾患に限りませんが、主治医との連携にも「この患者さんの生活リズムはこうなので、今後の処方については・・・」といった患者さん視点の治療にもつながっています。