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【POINT.1】薬剤師の介入で大切な「エビデンス」「個別的な対応」の両側面
定岡 邦夫 氏特定医療法人生仁会 須田病院/薬剤部長
精神科領域ならではの“特徴”を知ったうえで薬物治療へ介入することが重要
精神科における薬物療法は、薬という化学物質が脳に作用して症状が改善します。したがって、それらは薬理作用や実証的研究に基づくものでなければなりません。実証的根拠が少ない精神科治療のなかで、せめて薬物療法はエビデンスに基づいて行う必要があります。よって、原則治療ガイドラインに沿って行うべきであると考えています。
しかし、精神科は客観的な評価が困難な精神現象を標的にし、人間そのものを治療対象にしていますので、薬物療法はエビデンスやガイドラインの通りにいかないことも、また当然のことであると思います。
さらに患者が示す症状のなかには、病気になったことに対する人格反応的な症状も含まれています。これには薬物療法は限界があり、これは私達の対応によって対処すべきものであると考えています。また薬物療法には個別的なものがあり、それには人間に対する深い洞察力と感性が必要であると考えます。この薬物療法におけるエビデンスと個別性の両者の大切さを理解したうえで薬物療法に関わる必要性があると考えています。
多剤併用問題の背景に「精神科特例」「鎮静」という日本独特の歴史
欧米では精神科の大部分が公的病院ですが、日本では9割近くを民間が占めています※。1958年から、医師や看護師などの定数は一般病床の3分の1と認めるなど、「精神科特例」により民間病院の拡充が図られたためです。そのような歴史的背景もあり、患者さんに対しては「鎮静」が求められました。これが向精神薬の多剤併用の一因であり、歴史的な必然であったとも言えます。したがって、その改善を進める上では、歴史的背景を理解した上で介入しなければならないと考えています。
私が須田病院に入職した当時、同じ疾患でも医師の処方には格差があり、多剤併用も多くみられました。昨今は多剤併用解消のため診療報酬上の誘導がありますが、あくまで患者さんを中心に据えた薬物療法を考えなければなりません。ただ、当時は常勤薬剤師2人体制で、アウトカムを得るためには、効率的に取り組める何らかの戦略が必要でした。
処方格差と多剤併用の解消焦点に、個別処方内容のデータ化と問題点抽出
まずは医師ごとの処方内容をデータ化し、薬物療法における問題点を明確化していく戦略を考えました。実際、2009年1月の状況では、抗精神病薬の投与量が医師によって、CP(クロルプロマジン)換算で倍以上も違っていました。
そこで、すべての医師からコンセンサスを得て、私たちがチーム医療に参画し、積極的な疑義照会と処方提案を行っていくことにしました。具体的には1薬剤について1枚の用紙のなかで、薬剤名と取り上げた理由や薬剤師側からの処方提案など記載し、処方医からは了承、非了承であれば理由を記載してもらうというものです。
処方提案と疑義照会のフォーマット
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出典:「令和元(2019)年医療施設(動態)調査・病院報告の概況」 (厚生労働省) 「統計表4 開設者・施設の種類別にみた施設数」より
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/iryosd/19/dl/09gaikyo01.pdf