【POINT.2】検討会や薬薬連携を軸に多剤併用を是正し、処方の適正化を推進

定岡 邦夫 氏特定医療法人生仁会 須田病院/薬剤部長

「薬物療法症例検討会」を立ち上げ、病院全体として適正使用に注力

しかし、一対一での疑義照会ではなかなか改善しない症例もあり、院長に交渉し「薬物療法症例検討会」を立ち上げました。疑義照会の中から改善が難しい症例などを薬剤師が選定し、検討会のなかで処方医に症例報告いただき、質疑を行い、薬剤師がその総評をまとめ、情報共有します。

例えば、難治性うつ病では、効果が不十分な場合、次に増強療法、併用療法、切り替え療法のいずれかが選択されます。その結果、漫然と多剤併用になってしまうことがあります。それを防ぐためには各薬剤を十分量かつ、十分期間投与した上で効果判定することが重要です。具体的には院長の症例(76歳男性、うつ病・不眠症)を取り上げました。

検討会の中で院長からは、「患者さんの病状が悪くなった時は薬物療法を勿論見直すが、病状改善した時には減薬をするタイミングを逸する医師が多いかもしれない」「改善した時こそ、患者さん自身に薬物療法と向き合っていただく絶好のチャンスだな・・」と。どうやら院長が普段は言えない思いを、私たちにぶつけるような形で全員に周知させる機会になりました。また、問題症例に関連して、他の医師から一歩先を行く提案がされるなど、好循環につながりました。

症例検討会を通して、向精神薬の適正使用等を病院全体の問題として捉える視点と、疑義照会で個別的に検討する視点とを組み合わせながら、段階的に適正化が進みました。

「少ないからできん」と跳ね返さず、「どうすればよいか」と前進が根本

2011年度の1年間、当院へ入院された患者さんの転倒状況を調べました。転倒された患者さんは73名で、向精神薬投与量との関係性を交えながらデータ化しました。すると向精神薬とBZD系薬剤は年代とともに減少していましたが、抗パーキンソン薬は減少していない年代がありました。

さらに当院で認知症疾患医療センター開設時、2012年の6~7月の2ヵ月間、アルツハイマー型認知症と診断された患者さん(85名)の身体疾患と処方薬等との関係など調べました。すると、当院を受診された患者さんの3人に1人が、既に3剤以上の薬剤を処方されていることが分かり「引き算からやっていかなければならない」という機運になりました。

このようなデータを示しながら、できることから少しずつ拡げていきました。「少ないからできん」と跳ね返すのではなく、患者さんのために「どうすればよいか」と考えるのが根本ですね。院内も院外も。

当院の医師は処方箋を出すことには殆どが懸念したが、薬薬連携を軸に信頼関係を構築

外来患者さんを病院職員だけで、フォローするには限界があります。しかし、当院の医師のほとんどが当初、院外処方箋を出すことに懸念を持たれていました。

ひとことで向精神薬と言っても、使い方はデリケートで複雑です。しかし、院外処方箋の情報のみで病名などがわからない薬局では、および腰のまま、患者と接し、処方意図とは異なる服薬指導をして、「主治医から言われた話と違う」となってしまうことが少なくありません。また、外来受診時に院内で抗精神病薬持効性注射剤を実施しても、病院から薬局への情報提供や患者からの申告がない限り、内服薬の情報しか伝わりません。そうしたことからも、患者の同意を得た上で、病院から処方意図がある程度伝わるように必要最小限の情報提供は必要であると考えています。

また、外来時に自身の薬物療法について主治医へ相談することを躊躇する患者が意外と多いように思います。薬局薬剤師からいただくトレーシングレポートには主治医には言えなかったことも含めて、今後の治療に役立つ重要な情報の記載があり助かっています。個々の患者の薬物療法をサポートしていくには、こうしてお互いの情報共有が重要ではないかと感じています。

患者を中心にしたチーム医療の輪のなかに薬局薬剤師が加わって、包括的に薬物療法を支援していくことが、社会復帰に向けての大きな原動力になるのではないでしょうか?

「飛騨高山実地研修」全国バージョンの展開など、次代の育成が焦点に

ところで、若い薬剤師や大学には精神科医療を教育する機会がないのが現状です。そこでこの地域では2014年から薬学生に「飛騨高山実地研修」という一泊二日で地域・へき地医療や精神科医療を学ぶ機会を毎年提供しています。

精神科医療の領域は、今も「人が少ない」「受け入れられない」「教えられない」と、負のスパイラルが続いています。しかし、どこかで断ち切って、どんどん発信していきたいと思っています。今後、大学とタイアップして、精神科医療とはどういうものなのか、現場の医師と私たちが話をする飛騨高山実地研修の全国バージョンが展開できればいいなと思っています。