【POINT.2】「薬局」は具体的な食事、栄養、運動のアドバイスの場所

亀井 美和子 氏帝京平成大学 / 薬学部長

より具体的な指導ができる管理栄養士との連携は重要

薬局は健康な人も利用しますので、糖尿病以外の疾患リスクが高い人に生活指導ができる場所だと思います。糖尿病の場合、薬だけでなく食事・栄養と運動がすごく重要です。最近は、薬局に管理栄養士を配置しているところが増えていますが、やはり管理栄養士の助言は非常に具体的で、同じことを薬剤師に求めるのは酷だと思います。

医師は「あと何キロ、体重を減らしなさい」「食事に気をつけなさい」とは言いますが、患者さんとしては具体的にどうしたらよいか分からないので、その指導を実際の生活には反映できていないというのが現状でしょう。そこを具体的にアドバイスできるのが、薬局という場所だと思っています。そこで管理栄養士との連携は重要だと考えます。大学で糖尿病、治療薬については習いますが、具体的にどう指導したら良いかを学習する機会はあまりありません。実際、篠原先生との研究のなかで、薬剤師にアンケート調査をしたところ、糖尿病の薬のことは理解しているのですが、シックディの対応やフットケアなど、基本的な糖尿病のケアについては十分ではないという状況でした。基本的ケアのポイントを知った上で、この患者さんはこの段階だから、こういう指導をするというイメージをもって対応することが大事だと思います。

また、疾患管理においては、その患者さんができそうな目標を設定してあげることが大切です。例えば、この患者さんの食生活としての理想はこうだけど、現実には一人でご飯は作れない。となれば、コンビニ弁当の中で何を選べば良いか、個々の患者さんの生活環境に合わせるという視点が重要です。

糖尿病予備軍や健康不安の人への傾聴・アドバイスが大切

近年、低血糖予防等の観点から、糖尿病患者に対する調剤後薬剤管理指導加算が報酬として盛り込まれました。その際に、具体的な関り方を決めておく必要があると思います。薬局薬剤師が気兼ねなく糖尿病患者に介入するためには、診療報酬上の評価がつくことは、とても意味があることだと思います。ただ、算定要件が細かすぎると介入が限定される可能性があります。薬剤師の専門的知見をもってより多くの糖尿病患者に関われると良いのではないかと個人的には思います。逆に、要件として示されていることだけ、形だけの介入にはならないようにしてほしいと思っています。

日本の糖尿病患者は現在1200万人、予備軍を入れると2000万人ともいわれています。重症化予防は大変重要なテーマですが、糖尿病にさせないという気持ちを持つことも大切だと思います。糖尿病予備軍、健康に不安のある方々は、薬局にサプリや糖質制限の食品を購入にいらっしゃることがあると思います。そういう方々の相談事を聴いて、しっかりとアドバイスをしていくことが大事だと思います。もちろんそのための製品、商品を取り揃えておくことも大切です。

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服薬期間中のフォローアップ

また、重症化予防においては一人一人の目標設定が大事だと述べましたが、これからはウェアラブル端末などIT化、デジタル化の技術をうまく利用していくことが大事だと思います。さらに薬局という場を活用して、健康が気になる人が、気軽に測定できる検体測定室を充実させるなど、薬局でいろいろな疾患の予兆を早期発見することが重要になってきます。もちろん病気の疑いがあれば、薬局薬剤師としては当然、医療機関の受診を勧めます。もっと薬剤師が積極的にかかわることで、より多くに人をカバーし、効果的な発症予防、効率的な医療につながっていくと思います。

私はかなり長い期間、厚労省の研究班でイギリスの薬局・薬剤師業務についての調査研究を担当していました。1990年代のイギリスの薬局は日本の薬局とそれほど変わりがない印象でしたが、2000年以降大きく変化しています。薬剤レビューに加え、より進化したコンサルティングサービスが普及しつつあります。例えば、薬局で血圧測定し、高めの人には24時間モニタリングをし、結果に応じて受診勧奨する。ほかにも性病やC型肝炎の検査などのサービスも薬局で受けることができます。社会保障制度の違いはありますが、限られた医療財源、人材資源のなかで、疾患等を早期発見し、医療費を効率的に使っていこうという考え方が徹底され、タスクシフトも進んでいます。当然、薬局に対する新たな要件設定、研修なども必要ですが、参考になると思います。