【POINT.1】診察前の薬剤師面談によりHbA1c値は改善し、患者からも強い期待

亀井 美和子 氏帝京平成大学 / 薬学部長

アッシュビルプロジェクトの“実際”に触れ、日本でも実証研究を主導

アメリカでは2000年代には既に、ファーマシューティカル・ケアの概念の下に、薬剤師が直接的に患者ケアに関わる、薬剤師サービスを提供するということが定着しつつありました。薬剤師が疾患管理やヘルスマネジメントに関わる取り組みで成果を上げており、日本でも是非取り組みたいと考えていました。

2003年にアッシュビルプロジェクトで5年間にわたる薬剤師サービスの成果が公表されて、薬剤師が効果的に患者に関わることで、臨床的・人的・経済的な成果をもらたすことが実証されたことに大きな関心を持ちました。私は2008年に、当時勤務していた昭和大学のメンバーとアッシュビルに行き、現地で取り組みの詳細を聞いて、日本でもできるのではないかと考えました。

帰国後はまず病院内で、薬剤師が介入することで、糖尿病治療成績がどう変化するかパイロット的に研究しました。昭和大学病院東病院の医師と薬剤師に協力いただき、診察前に薬剤師が患者と面談し、その際に気づいた点を医師に文書等で報告します。医師は必要に応じて処方内容などに反映させる。これを繰り返すことによって、HbA1c値のコントロールの改善とともに、患者さんのQOLが改善しました。喘息治療についても同様に病院内でパイロットスタディを行いました。

その成果を踏まえ、保険薬局の協力を得て介入研究に取り組みました。喘息治療については名古屋で比較的大規模な研究を行いました。糖尿病治療については、もともとフローラ薬局(茨城県)の篠原久仁子先生とは共同研究をしていたこともあり、篠原先生の薬局と近隣の医療機関に研究に協力いただき、薬局が医療機関と連携して患者さんを継続的にサポートするという研究に取り組みました。

これまで私は多くの薬局に研究協力を呼び掛けてきましたが、当時の薬局の先生方の中には「既に病院で説明を受けているから、余計なことはしない」「余計はことをするなと言われている」ことを理由に、協力できないと言われることがありました。ところが、実際には医療機関は忙しく十分な説明ができていなかったり、医療機関で説明を受けていても、薬局で確認すると意外にわかっていないということが、研究を通じてわかってきました。

篠原先生は糖尿病が専門ということもあり、糖尿病専門医とも非常に良い関係を築かれ、看護師とも連携を取っておられました。そこで医師、看護師、薬剤師がそれぞれ役割を分担し、実際の診療の中で何をしたか、できなかったかをチェックし補完して、もう一度薬局で指導するということを行いました。8ヵ月間実施した結果、積極的に介入しなかった群と比べ、介入群では明らかなHbA1c値の改善がみられました。

“限りある資源を有効活用する”ため情報の無駄をなくし、より深い共有を目指す

2010年には日本大学に戻ってきましたが、その頃には糖尿病治療の選択肢が次第に増え、処方内容が複雑化してきました。SU剤のみという時代から薬剤の種類が増えたことで、低血糖は起こしにくいが処方・剤数が増え、患者負担も増え、患者さんによっては自己管理が難しいという状況も出てきました。日本くすりと糖尿病学会の会員を対象とした調査で、その状況が明らかになりました。そこで、飲み忘れや飲み残しを防ぐための薬剤師の関わり方を検討するとともに、当時、私の研究室の社会人大学院生であった病院薬剤師の方と、複雑化する処方のスリム化を目指した薬剤師による診断前面談と医師に処方提案するという研究を行いました。

患者の希望を聞いて医師に処方提案した結果、処方が変わったことで患者のアドヒアランスが改善し、HbA1c値は改善されました。驚いたことに、対象患者さん全員にアンケート調査した結果、過半数の方から「薬剤師に診察前の面談を受けたい」との回答が得らえました。面談を受けたい人は、治療満足度が低い傾向がありました。医師に伝えたいことがあってもどう伝えたらよいかわからず、話す機会もない。薬剤師に補ってもらうことが求められていると言えます。

いまや糖尿病患者はどこにでもいます。どの診療科にも入院していますし、どの薬局にも通っています。適切に管理できなければ、重症化予防はできないわけですので、最前線の薬局薬剤師が糖尿病ケアの基本を身に着けていることが非常に重要です。もちろん、どれだけ関われるかということもありますが。