【POINT.1】薬剤師は患者さんが決めた目標へ、「一緒に走っていこう!」という伴走者

黒田 泰司 氏まこと薬局 / 代表取締役

日常生活に接する薬局薬剤師だからこそ、患者さんの行動変容を促せる

私は2005年に神戸薬科大学を卒業しましたが、3回生の時に「米国の薬剤師はすごい」と聞き、米国での就職を考えました。大学を卒業し、共立薬科大学(現・慶応義塾大学)大学院で、2ヵ月弱、米国テキサス州の病院で研修しました。ちょうど日本でも病棟業務が始まった頃で、むしろ「本場」ではナース・プラクティショナーの活躍の方が目立ち、聞いていた話とは違うという思いで日本に帰ってきました。

大学院の同級生たちは卒後皆、病院に就職しましたが、当時は就職しても3年は調剤業務、次いで注射室等など、すぐには病棟業務には関われませんでした。そこで病院外でできないかと考え、始まったばかりの在宅業務に目を付けました。在宅業務に取り組んでいる薬局を探し就職し、新潟の薬局チェーンに3年、結婚を機に地元兵庫に戻って、中小チェーンで約6年勤務したのち縁があって2016年にまこと薬局を開業。2021年にもう一店舗開業しました。

私は学生時代、アッシュビルプロジェクトを知り、日本と米国の薬剤師が何故違うのかと考えアメリカにも短期研修に行きました。帰国後、どうすれば社会の役に立てるかを考えました。慢性疾患の場合には、多忙な医師が毎回患者さんのお話をじっくり聞くことができないのではないかという考えに至りました。

そのなかで糖尿病は血糖値やHbA1cなど数値が分かり、毎回同じ薬でも数値が変わることがあります。そこには患者さんの何らかの変化、つまり行動変容があったわけで、日常生活に接する薬局薬剤師ならば患者さんの行動変容を促せると気づき、そこから糖尿病の勉強を始めました。

実は、アッシュビルプロジェクトと同じような取り組みが日本でも行われていました。和歌山県立医科大学薬学部の岡田浩教授(当時:京都医療センター)らの「COMPASS研究」により、薬局薬剤師の介入で糖尿病患者のHbA1c値が下がることを知り、ある意味で衝撃を受けました。すぐにでも研究に参画したかったのですが諸事情により叶わず、数年後に岡田先生(当時:京都大学健康情報学研究室)が主催するエンパワーメントという概念に基づく服薬支援の研修「3☆ファーマシスト研修」を受講しました。

薬剤師から見て当たり前でも、“きちんと薬が飲めること”を褒め称える

この研修を通じ、患者さんは強制しなくとも自身に問題解決する能力があり、それを後押し、支援する「エンパワーメント」の大切さ知り、その考え方が至極腑に落ちました。

薬剤師と患者さんとが対峙する場面は頻繁にありますが、その多くは「薬はきちんと飲んでくださいね」と薬剤師が患者さんに指導するという関係です。しかし、糖尿病を含め慢性疾患の場合、薬剤師を含め医療者は「一緒に走っていこう!」という伴走者なのだと思います。患者さんが自身で決めた目的、目標に向かって走っていくときに、「コケたら助けますよ」という関係が大事なのです。

実際には、勝手にインシュリン注射を止めてしまったり、薬を飲んだり飲まなかったりする人がいます。例えば、そのせいで合併症を起こし入院すると、本人が「このままではだめだ」と気づき、しっかり薬を飲み始めます。その時には「しっかり飲めてますね!」と認め、褒め称えます。患者さんは喜び、「これで良いんだ」と思いを強く持ち、その後も体重や血糖値が維持されます。一方、自覚症状が無くてもきちんと薬を飲める方もいます。当たり前ですが、それでも「それができることはすごいですよ」と賞賛、認めることが大事です。