蛋白尿を軽視せず、積極的に専門医にご相談ください

  • 診療科腎臓内科
  • エリア広島県広島市

正木 崇生(まさき たかお)先生

広島大学病院 腎臓内科 教授

正木 崇生(まさき たかお)先生

腎臓内科は、高い臓器専門性と総合内科的な側面を併せ持つ

広島大学病院腎臓内科は、2011年に新設された比較的新しい講座です。わが国には約6,000人の腎臓専門医がいますが(2022年5月現在)、慢性腎臓病(CKD)患者や慢性維持透析患者の増加などを背景とした近年のニーズの高まりを鑑みると、いずれの地域においても充足しているとは言いがたいのが現状です。広島県も例外ではありませんが、当科の創設以降、広島市内のみならず東広島市、三次市など周辺地域の中核病院への腎臓内科医の配置を推し進め、カバーできる範囲を徐々に拡大してきました。

私は、一人の患者さんに長期間寄り添えることが腎臓内科の特徴であり、魅力でもあると考えています。尿検査、血液検査、腎病理検査による腎疾患の診断に始まり、その治療、そして透析導入・導入後の管理に至るまで、初期から終末期の一連の診療に携わることができます。同時に、腎臓病は合併症が非常に多いため、全身の様々な疾患の徴候を見逃さず、適切に初期対応することも求められます。腎臓に対する高い専門性と、全身を診る総合内科的な側面を併せ持つ診療科であると思います。

そうした中、腎障害が代表的な症状の一つであり、蛋白尿が初期の重要な所見であるファブリー病は、頻度は低いながらも腎臓内科が診断と治療に貢献しうる疾患であると言えます。

糖脂質が糸球体や尿細管の細胞に蓄積し、腎機能の低下をもたらす

ファブリー病は、ライソゾーム内に存在する加水分解酵素であるα-ガラクトシダーゼ(α-Gal)の欠損または活性低下により、その基質である糖脂質グロボトリアオシルセラミド(Gb3)が分解されることなく細胞内に異常蓄積することによって発症する、遺伝性疾患です。

Gb3は全身の組織・臓器に蓄積しますが、蓄積する場所や発症時期は症例ごとに異なり、多様な臨床表現型を呈します。病型は、男性では幼少期に発症する古典型と、成人以降に発症する遅発型、そして、女性はヘテロ接合体に分けられます。私たち腎臓内科が遭遇する可能性が高いのは、遅発型の中でも腎臓が侵されるタイプです。腎臓においてGb3は、主に糸球体内皮細胞や上皮細胞、近位尿細管細胞に蓄積し、腎機能の低下をもたらします。初期には蛋白尿を呈するのみですが、進行すると最終的に末期腎不全に至り、透析や腎移植などの腎代替療法が必要となる場合があります。そのため、できる限り早期に診断し、治療を開始することが望まれます。

Myelin-like bodyが特徴的な電顕所見

ファブリー病に特徴的な腎生検所見として、電子顕微鏡(電顕)像におけるmyelin-like body(ミエリン様封入体)が挙げられます。Myelin-like bodyは腎組織へのGb3の沈着を反映し、電顕上、顆粒状あるいは層状の構造物として認められます。ファブリー病に限らず、腎疾患を早期に発見するためには、蛋白尿を呈する例では患者さんの同意の下、積極的に腎生検を行うことが重要と考えます。当科では、CKDの蛋白尿区分でA2に相当する0.15g/gCr以上を、腎生検の施行を考慮する目安としています。

また、最近では尿沈渣中のmulberry小体(渦巻状構造の脂肪球)が、ファブリー病を示唆する尿所見として注目されています。Mulberry小体を多数含む細胞をmulberry細胞と呼び、これはGb3が蓄積した糸球体上皮細胞や尿細管上皮細胞が尿中に析出したものと考えられています。

酵素補充療法により、蓄積したGb3の除去や腎機能障害の進行の緩和が期待できる

腎生検等によってファブリー病が疑われた場合は、α-Galの酵素活性測定によって診断を行います。男性ではα-Gal活性を測定することによりほぼ診断が可能ですが、女性は保因者であってもα-Gal活性値が正常範囲である場合があり、遺伝子解析なども加えた総合的な判断が求められます。

ファブリー病の確定診断に至った際は、速やかな治療導入を考慮します。現在ではファブリー病の治療法として酵素補充療法が確立しており、細胞に蓄積したGb3の除去1)のみならず、腎臓を含む重要臓器障害の進行の緩和2)が期待できます。2週間に1回の点滴静注が必要な、患者さんに負担を強いる治療法ではありますが、前向きに治療に臨んでいただくためにも、治療によって期待できる効果、および未治療のまま放置することのリスク(心不全や腎不全、脳梗塞などのリスク)について、詳しく説明することが求められます。また、α-ガラクトシダーゼの立体構造を安定化することによって本来の酵素の働きを促進するシャペロン療法が認可されています(治療反応性のある遺伝子変異を伴う16歳以上の患者さんが対象)。

蛋白尿は腎疾患を早期に顕在化しうる重要所見

腎臓病学は心臓や呼吸器、消化器といった他の臓器を扱う学問と比べて歴史が浅く、腎疾患に対する認知の浸透も、まだ十分とは言えません。腎機能は全身状態と密接に結びついており、腎疾患に心疾患や血管障害などが合併している場合も少なくありません。尿検査で何らかの異常を認め、その原因が不明である場合は、積極的に専門医にご相談ください。

特に蛋白尿は、ファブリー病を含む腎疾患を早期に顕在化しうる重要な所見の一つです。自覚症状がなく、蛋白尿のみが認められる段階でも結構ですので、遠慮なくご紹介いただくとともに、患者さんには専門施設での精密検査を勧めていただきたいと思います。

  1. Thurberg BL, et al.: Kidney Int 62(6): 1933-1946, 2002
  2. Beck M, et al.: Mol Genet Metab Rep 3: 21-27, 2015
医療機関名称 広島大学病院 腎臓内科
住所 〒734-8551 広島県広島市南区霞1-2-3
電話番号 082-257-5555(代表)
医師名 教授 正木 崇生(まさき たかお)先生
ホームページ https://www.hiroshima-u.ac.jp/hosp外部サイトを開く