【from Japan】
初期研修医の心理的苦悩について:日本における7年にわたる2年間の縦断的コホート研究

Comprehensive Psychiatry, 127, 152425, 2023 Psychological Distress Among Early Medical Residents: A 2-Year Longitudinal Cohort Study over Seven Years in Japan. Shintaro Watanabe, Takuji Uemura, Yusuke Iwata, Hideaki Yagasaki, Jun Itakura, Takefumi Suzuki

渡邉 慎太郎 先生

山梨大学医学部附属病院精神科

渡邉 慎太郎先生

背景

研修医は燃え尽き症候群の有病率が高いとされており,過去20年間で有病率はほとんど変化しておらず,世界的な問題である。本研究では大学病院の初期研修医を対象に,抑うつとその関連因子を初期研修2年間にわたり縦断的に調査した。また,日本の初期研修医の燃え尽き症候群の現状を明らかにするために,個人のストレス対処と抑うつとの相互関係を,潜在的な性差を念頭に置いて調査することを目的とした。

方法

本研究では,2012年から2018年の間に初期研修を開始し,山梨大学医学部附属病院で少なくとも1年間の研修を行った215名の研修医を対象とした。各診療科でのローテーション終了1週間前から新しい診療科移行3日後までの間に,職業性ストレス簡易調査票(Brief Job Stress Questionnaire:BJSQ),抑うつ自己評価尺度(Centre for Epidemiologic Studies Depression Scale:CES-D),コーピング特性簡易評価尺度(Brief Scale for Coping Profile:BSCP),アテネ不眠尺度(Athens Insomnia Scale:AIS)の評定を依頼し,継続的に回答があった205名の研修医を分析対象とした。

燃え尽き症候群状態の経時的変化を評価するために,当該期間中に2年間を通して当院のみで研修医プログラムを修了した130名の研修医を対象に,1年目と2年目の平均CES-D評点をWilcoxonの符号順位検定を用いて比較した。また,CES-D評点を従属変数とし,BJSQ,BSCP,AISの評点を独立変数とする重回帰分析を行った。更に,参加者をCES-D評点に基づき3群に層別化し,群間の対処技能を比較した。BSCPとCES-D,BJSQ,AISの1年目と2年目の平均評点について,性別ごとにMann-WhitneyのU検定を行った。

結果

研修医2年目の平均CES-D評点は,1年目と比較して2ポイント以上有意に低下していた(130名,11.3±6.7 vs 9.2±7.0,p<0.001)。

CES-D評点に対するBJSQ/BSCP/AISの重回帰分析の結果,不眠が1年目平均,2年目平均,CES-D最大時,CES-D最小時の全ての指標において有意な影響を及ぼすことが明らかになった(いずれもp<0.001)。CES-D評点以外では,BSCPにおける回避と抑制,BJSQにおける同僚の支援が多くの指標で有意に影響していた(表)。

また,CES-D評点が一貫して15点以下の(レジリエント)群は,視点の転換,積極的問題解決,気分転換の点で優れていた。

男女差に関してはCES-DとAIS評点に有意差はなかったが,1年目のBJSQにおける仕事のコントロール度,及びBSCPにおける他者を巻き込んだ情動発散では,女性で有意に評点が高かった。

結論

初期研修医の平均CES-D評点は,抑うつなし~軽度の抑うつの範囲であった。燃え尽き症候群の予防のためには,CES-D評点が相対的に高値である研修医1年目の負担軽減とローテーション柔軟性の向上,抑うつと強く相関する不眠に対する積極的なモニタリングと早期介入,同僚サポートの強化などの方策が考えられる。

表.CES-Dに対するBSCP/BJSQの重回帰分析

265号(No.1)2024年4月11日公開

(渡邉 慎太郎)

このウィンドウを閉じる際には、ブラウザの「閉じる」ボタンを押してください。