日本人労働者におけるポジティブな感情とアブセンティーズム及びプレゼンティーズムとの関連

J AFFECT DISORD, 344, 319-324, 2024 The Association of Positive Emotions With Absenteeism and Presenteeism in Japanese Workers. Chen, C., Okubo, R., Hagiwara, K., et al.

背景

うつ病のような否定的感情は,アブセンティーズムやプレゼンティーズムの増加と関連しており,多大な経済的損失をもたらしている。しかし,幸福感などのポジティブな感情がアブセンティーズムやプレゼンティーズムに影響するかどうかを調べた研究はない。

本研究では,幸福感と感謝という二つの主要な代表的なポジティブな感情に焦点を当て,この影響を検証することを目的とした。

方法

2022年9~10月に実施した全国調査であるJapan COVID-19 and Society Internet Survey(JACSIS)のデータ19,214名分を用いて,代表的な二つの主要ポジティブ感情(幸福感と感謝)がアブセンティーズムやプレゼンティーズムと関連するかどうかを調査した。

幸福感は,「あなたは普段,自分が幸せだと思いますか?」という1項目の質問で評価した。参加者は,まったく該当しないことを0,完全に該当することを10として,11段階で回答した。感謝は,日本語版の感謝アンケート(Gratitude Questionnaire:GQ-6)を使用して測定した。アブセンティーズムは,過去1ヶ月間に1日以上の病気休暇を報告したことと定義した。プレゼンティーズムは,作業機能障害尺度(Work Functioning Impairement Scale)を用いて測定した。

共変量として,性別,年齢,婚姻状況,世帯収入,学歴,雇用状態,仕事の種類,仕事の需要,仕事の管理,体格指数(BMI),身体的疾患,精神的疾患の情報を抽出した。更に,否定的な感情の交絡を排除するために,共変量としてうつ病の症状の尺度も含めた。うつ病の症状の評価にはケスラー心理的苦痛尺度(Kessler Psychological Distress Scale:K6)を使用した。

共変量を制御し,多変量ロジスティック回帰を使用して,ポジティブな感情とアブセンティーズムやプレゼンティーズムとの独立した関連性を評価した。二つのポジティブな感情間の潜在的な相乗的相互作用を評価するために,相対過剰リスク(RERI),帰属割合(AP),相乗効果指数(SI)を計算した。

結果

被験者の12.4%がアブセンティーズムを,21.8%がプレゼンティーズムを報告した。ロジスティック回帰では,共変量を補正した後,幸福感はアブセンティーズムのオッズ低下[オッズ比(OR)=0.792,95%信頼区間(CI):0.706-0.888]及びプレゼンティーズムのオッズ低下(OR=0.531,95%CI:0.479-0.588)と関連し,感謝はプレゼンティーズムのみのオッズ低下(OR=0.705,95%CI:0.643-0.774)と関連していた。

更に,幸福と感謝の両方が同時に存在すると,プレゼンティーズムのオッズは更に低くなり(OR=0.385,95%CI:0.338-0.439),相乗的な関係が示された。RERI値は0.501,AP値は0.193,SI値は1.458であった。RERIとAPの値が0を超え,SI値が1を超える場合は,正の相互作用または単なる相加性以上の関係を示すため,幸福と感謝が相乗的にプレゼンティーズムに関連していることが示唆された。

考察

本研究は,ポジティブな感情とアブセンティーズム及びプレゼンティーズムとの関連を調べた初めての研究である。アブセンティーズムやプレゼンティーズムによる経済的損失が大きいことを考えると,ポジティブな感情を高める戦略が必要である。

265号(No.1)2024年4月11日公開

(米澤 賢吾)

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