プライマリーケアにおける不眠症のための看護師による睡眠制限療法の臨床的及び費用対効果(HABIT):実践的優越性非盲検無作為化対照試験

LANCET, 402, 975-987, 2023 Clinical and Cost-Effectiveness of Nurse-Delivered Sleep Restriction Therapy for Insomnia in Primary Care (HABIT): A Pragmatic, Superiority, Open-Label, Randomised Controlled Trial. Kyle, S. D., Siriwardena, A. N., Espie, C. A., et al.

背景

不眠症は成人の10%が罹患している。国際的なガイドラインでは,治療の第一選択は複合的な認知行動療法(CBT)であるべきとされているが,資源や専門知識が不十分なため,その利用は世界的に極めて限られている。

CBTの中心的な要素の一つに睡眠制限療法があり,これは睡眠を定着させ安定させるために,就寝時間を計画的に制限し,管理するものである。これまでの研究では,睡眠制限療法について,非専門医が実施できるか,不眠症の長期的改善に繋がるか,費用対効果が高いかどうかは不明確であった。本研究では,プライマリーケアにおいて,看護師による短時間の睡眠制限療法(睡眠衛生指導と並行して)が臨床的に有効であり,費用対効果も高いかどうかを検証するために,専門家による短期的不眠治療(Health-professional-Administered Brief Insomnia Therapy:HABIT)研究を行った。

方法

イングランドの35ヶ所の診療所で,不眠症の診断基準を満たした18歳以上の被験者を募集した。

睡眠制限療法は看護師により提供し,週に1回のセッションを4週間実施した。睡眠衛生指導としては,睡眠と不眠に関連する生活習慣及び環境要因に関する標準的な行動指針についての小冊子を配布した。

主要評価項目である不眠の重症度は,不眠重症度指数(insomnia severity index:ISI)を用いて3ヶ月後,6ヶ月後,12ヶ月後に測定した。

睡眠衛生に対する睡眠制限療法の費用対効果の評価は,英国国民保健サービス(National Health Service:NHS)及び個人福祉サービス(personal social services:PSS)の観点から行い,獲得質調整生存年(Quality-adjusted life year:QALY)当たりの増分費用で表した。

結果

2018年8月29日~2020年3月23日の間に被験者を募集し,642名を組み入れ,睡眠制限療法と睡眠衛生指導を受ける介入群(321名),睡眠衛生指導を受ける対照群(321名)に無作為に割り付けた。580名(90.3%)の被験者[介入群275名(85.7%),対照群305名(95.0%)]から最低1回の追跡時のデータが得られ,主要転帰を評価するために分析した。

介入群の6ヶ月後の平均ISI得点は10.9(標準偏差5.51)点で,不眠症の重症度は対照群よりも低かった。治療効果は3ヶ月後と12ヶ月後にも示されていた。6ヶ月時点で,臨床的に有意な治療反応(ISIが8点以上減少)を示した人数は,介入群では257名中108名(42.0%)であったのに対し,対照群では291名中49名(16.8%)であった。

共変量調整を使用し,NHSとPSSの観点から行ったベースケース解析(図)では,睡眠衛生指導と比較した睡眠制限療法に関連する増分費用は43.59ポンド[95%信頼区間(CI):-18.41-105.59],増分QALYは0.021(95%CI:0.0002-0.042)であった。獲得QALY当たりの増分費用は2,075.71ポンドであり,獲得QALY当たり2万ポンドの費用効果閾値において,睡眠制限療法が費用効果的である確率は95.3%であった。

結論

プライマリーケアの看護師による短時間の睡眠制限療法は,不眠症の改善に有効である。費用対効果も高く,不眠症患者に対するガイドラインに従いたい臨床医にとって実践可能なアプローチである。

図.睡眠制限療法と睡眠衛生指導を比較した場合の費用とQALYのブートストラップ平均差を表す費用対効果平面

265号(No.1)2024年4月11日公開

(冨山 蒼太)

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