高齢者の座位行動と認知症発症

JAMA, 330, 934-940, 2023 Sedentary Behavior and Incident Dementia Among Older Adults. Raichlen, D. A., Aslan, D. H., Sayre, M. K., et al.

背景

米国の成人の半数は,1日のうち9.5時間以上を座って過ごしており,これには余暇時間の80%以上が含まれる。これまでの研究では,座位行動(座りがちな行動)と様々な健康リスクとの潜在的な関連について詳述されており,その中には認知的及び構造的な脳の老化との関連も含まれている。

本研究では,英国バイオバンクの高齢者の大規模コホートから得られたウェアラブル加速度計データに機械学習アルゴリズムを適用し,座って過ごした時間の客観的尺度を導き出し,座位行動と認知症発症との関連を明らかにした。

方法

英国バイオバンク(イングランド,スコットランド,ウェールズ地方における地域在住の成人)のデータから,基準時点のデータを2006~2010年に収集した。2013~2015年に実施されたサブスタディでは,3軸ロギング加速度計(AX3;Axivity社製)を利き手の手首に1日24時間,7日間装着することに同意した103,684名の成人を対象とした。今回の解析では,加速度計のサブスタディの参加者のうち,参加前に認知症がなく,少なくとも3日間の有効な装着時間(>16時間/日)があり,加速度計装着時に60歳以上であった個人に限定した。参加者を,加速度計装着日から,各データベースにおける最初の認知症診断(認知症発症),死亡,追跡不能日,または最終入院日まで追跡した。本研究では,座位行動が極端な値(>18時間/日)の個人は除外した。

病院の入院記録及び死亡登録データを用いて,全原因による認知症発症診断を決定した。

結果

最終分析標本には,合計49,841名の高齢者[平均年齢(標準偏差:SD)は67.19(4.29)歳,54.7%が女性]が含まれた。認知症の発症は414例で,追跡期間は334,937人‐年[平均追跡期間は6.72(SD=0.95)年]であった。非線形完全補正モデルでは,座位行動の中央値9.27時間/日に対する認知症のハザード比(HR)は,10時間/日で1.08[95%信頼区間(CI):1.04-1.12,p<0.001],12時間/日で1.63(95%CI:1.35-1.97,p<0.001),15時間/日で3.21(95%CI:2.05-5.04,p<0.001)であった。

座位行動に関する四分位群ごとの認知症の発生率(1,000人‐年当たり)は,第1四分位群(1.96~<8.08時間/日)0.98,第2四分位群(8.08~<9.27時間/日)0.98,第3四分位群(9.27~<10.44時間/日)1.14,第4四分位群(10.44時間/日以上)1.84であった。

二次分析では,特定の座位行動のパターンは,認知症発症との直線的な関連と非直線的な関連との間で有意な差を示さなかった(尤度比検定でp>0.05)。線形関係については,完全補正モデルにおいて,1回当たりの平均座位時間の長さ[HR=1.53(95%CI:1.03-2.27),p=0.04;平均0.48時間から1時間増加すると1,000人‐年当たり0.65(95%CI:0.04-1.57)認知症症例が増加]と1回当たりの最大座位時間の長さ[HR=1.15(95%CI:1.02-1.31),p=0.02;平均1.95時間から1時間増加すると1,000人‐年当たり0.19(95%CI:0.02-0.38)認知症症例が増加]が認知症発症と有意に関連していた。

感度分析では,座位行動に費やした時間を補正した後,1回当たりの平均座位時間及び1回当たりの最大座位時間は認知症発症と有意な関連を示さなくなった。

結論

高齢者では,座位行動に費やす時間が長いことと,認知症の発症率が高いことが有意に関連していた。座位行動と認知症リスクとの関連に因果関係があるかどうかを明らかにするためには,今後の研究が必要である。 

265号(No.1)2024年4月11日公開

(大谷 愛)

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