戦争への曝露,戦争の悪夢,不眠,そして戦争に関連した心的外傷後ストレス障害について:ウクライナ戦争中の大学生におけるネットワーク解析

J AFFECT DISORD, 342, 148-156, 2023 Exposure to War, War Nightmares, Insomnia, and War-Related Posttraumatic Stress Disorder: A Network Analysis Among University Students During the War in Ukraine. Pavlova, I., Rogowska, A. M.

背景

ロシアのウクライナ侵攻は,ストレス,心的外傷後ストレス障害(PTSD),不安,うつ病の増加など,ウクライナの民間人や退役軍人のメンタルヘルスに影響を与えている。しかし,ロシア侵攻中のウクライナ人における戦争に関連した変数の相関や有病率についてはほとんど知られていない。

本研究では,ウクライナの大学生における戦争への曝露(EW),戦争の悪夢(NW),不眠,戦争に関連した心的外傷後ストレス障害(WPTSD)の有病率とその相関を評価した。

方法

ロシアがウクライナに侵攻していた2022年9月26日~10月16日の間,ウクライナ西部の大学生(1,072名)を対象に,Googleフォームを使ってオンラインで横断的調査を実施した。調査は告知同意の記入から始まり,同意した者のみがその後の調査に参加した。大学生には,Viber,Facebookグループ,Telegramチャンネルを用い参加を呼びかけた。ウクライナの戦争関連体験を測定するため,戦争中のウクライナ人の典型的な体験に基づき,様々な種類のEWに関する八つの質問項目を作成した。参加者は,各曝露の深刻度を6段階のリッカート尺度(0~5)で回答した。また,本研究のために,ウクライナの戦争に関連したNWに関する七つの質問を作成し,悪夢に悩まされる頻度を5段階のリッカート尺度で評価した。不眠症はアテネ不眠尺度(Athens Insomnia Scale:AIS)を用いて測定し,WPTSD症状の評価には,6項目のPTSDチェックリスト(PCL-6)を用いた。

EW,NW,不眠症状とPTSD症状との関連について,ネットワーク解析を用いて検討した。

結果

大学生の98%が少なくとも1種類のEWを申告し,21名(2%)が8種類全てのEWを経験した。86%が少なくとも1種類のNWを見ており,16%が7種類全ての悪夢を見ていた。49%が不眠症状を経験し,27%がWPTSDの症状を呈した。不眠症状とWPTSDの共発生の有病率を評価するために,Pearsonの独立性のカイ二乗検定を行ったところ,231名(22%)が不眠症状とWPTSD症状を同時に報告していた(p<0.001)。

ネットワーク解析の結果(図),WPTSDと不眠症状との間に最も強い関連が認められた。WPTSDとNWの頻度との間には,やや弱いものの同じような相関があることが示された。WPTSDが,NWを見る頻度と不眠症状の重症度に対して,中心的かつ最大の影響を与えていることがわかった。

結論

本研究結果から,学生たちは直接的な敵対行為のないウクライナ西部地域の出身であるにもかかわらず,ほとんどが戦争に関連したトラウマ的出来事やNWにさらされたと報告した。ウクライナの学生の不眠とPTSD症状の有病率は高かった。更に,ネットワーク解析から,EWは不眠と悪夢に別々に影響を及ぼし,間接的に(それらの症状を介して)WPTSDを増加させることが示された。PTSDと不眠や悪夢との間には双方向の関連が示されているため,戦争中のウクライナ人の介入・予防プログラムでは,三つの変数全てをまとめて対象とすべきである。

図.戦争中のウクライナの大学生(1.072名)における、戦争への暴露(EW)、戦争の悪夢(NW)、不眠症(AIS)、戦争に関連したPTSD症状(PCL)の特定項目間のネットワーク構造

265号(No.1)2024年4月11日公開

(佐久間 睦貴)

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