心的外傷のあるコホートにおける降圧薬の投薬とPTSDの罹患数

J CLIN PSYCHIATRY, 84, 22m14767, 2023 Antihypertensive Medications and PTSD Incidence in a Trauma Cohort. Gradus, J. L., Smith, M. L., Szentkúti, P., et al.

背景

心的外傷後ストレス障害(PTSD)と心血管疾患には関連があることが知られている。そして,高血圧の治療薬によるPTSDの症状の減少や発症予防についての検討と,複数の降圧薬の研究が行われているが,結果は様々であり,相反するものとなっている。また全住民ベースで新規発症のPTSDの罹患率を調べた研究はまれである。

そのため,本研究では全国規模の住民ベースのコホートデータを用いて,心的外傷体験前の60日以内に処方された4クラスの降圧薬が,PTSDの罹患数の減少に関連しているかどうかを22年間にわたって追跡した。

方法

本研究のデータは,デンマークにおいて1994~2016年の心的外傷体験を持つ140万人以上のコホートから収集した。心的外傷体験前の60日以内に処方された4クラスの降圧薬[βアドレナリン受容体拮抗薬(β遮断薬),アンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB),アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬,カルシウムチャネル遮断薬]が,PTSDの罹患数の減少に関連しているかどうかを検討した。PTSDの罹患率は10万人当たりの1年間の発生数とし,研究期間全体の累積罹患数を算出した。そして,Cox比例ハザード回帰モデルを用いて,心的外傷体験前の60日以内に4クラスの降圧薬を処方された群と,降圧薬を使用していない群との間でPTSD罹患率を比較した。

結果

心的外傷前の60日以内にカルシウムチャネル遮断薬を投与された人のPTSD罹患率は10.9/10万人‐年で,研究期間中の累積罹患数は0.06%であった。対応する非曝露群のPTSD罹患率は15.7/10万人‐年で,研究期間中の累積罹患数は0.08%であった。これを婚姻状況,収入,心的外傷時に処方及び使用された他の薬剤,チャールソン併存疾患指数(Charlson Comorbidity Index)の評点,心的外傷の種類で補正すると,観察された関連性は0.63(95%信頼区間:0.34-1.2)であった。対照的に,ACE阻害薬,ARB,β遮断薬については,PTSD罹患数との関連の証拠が弱いか,まったく存在しなかった。

結論

心的外傷前のカルシウムチャネル遮断薬の服薬は,心的外傷後のPTSDの罹患数の減少に関連していた。

265号(No.1)2024年4月11日公開

(小杉 哲平)

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