若年期の双極性障害におけるリスクに敏感な意思決定と自傷行為

J CLIN PSYCHIATRY, 84, 22m14693, 2023 Risk-Sensitive Decision-Making and Self-Harm in Youth Bipolar Disorder. Dimick, M. K., Sultan, A. A., Kennedy, K. G., et al.

背景

双極性障害(BD)を持つ若年者は,自殺のリスクが非常に高いことが知られており,これには自殺企図及び非自殺的自傷行為(NSSI)が含まれる。大うつ病を持つ若年者において,過大なリスクテイクが自殺企図と関連していることが示されているが,BDを持つ若年者におけるリスク関連の意思決定と自傷行為との関係についてはまだ十分に明らかになっていない。自殺は若年者の主要な死因の一つである。本研究の目的は,BDを持つ若年者において自傷リスクとリスクに敏感な意思決定との関連を調査することである。

方法

2012~2020年に,DSM-IV基準に基づいてBDの診断を受けた若年者を三次専門診療所から募集し,年齢・性別をマッチさせた対照群(13~20歳)を広告を通じて募集した。NSSIと自殺企図の既往に基づいて,事後的に参加者をグループ分けした。

自傷歴については,自傷行為・自殺行動縦断的追跡評価尺度(Longitudinal Interval Follow-up Evaluation Self-Injurious/Suicidal Behavior Scale)を用いた聞き取り調査を行った。ケンブリッジ神経心理検査自動バッテリー(Cambridge Neuropsychological Test Automated Battery)に含まれるケンブリッジ・ギャンブルタスクを使用して,意思決定とリスクテイクのパフォーマンスを評価した。

年齢,性別,IQを補正した上で,一般線形モデルを用いて群間の違いを検討した。

結果

163名の若年者が本研究を完遂した[自傷歴のあるBD若年者(BDSH+)52名,自傷歴のないBD若年者(BDSH-)26名,対照群82名]。

BDSH-は,BDSH+及び対照群と比較して,ギャンブルタスクのパフォーマンスが優れていた。具体的には,BDSH‐群は賭けるポイントの全体的な比率が低く(F2,157=3.87,PFDR=0.04,η2=0.23),意思決定にかける平均時間が長く(F3,156=4.12,PFDR=0.04,η2=0.03),リスクテイクにおいてもより強い自制心を示した(F2,157=3.83,PFDR=0.04,η2=0.23)。

考察

本研究は,自傷行為と意思決定の関連を調査した初めての試みであり,BDを持つ若者の自傷リスクと意思決定プロセスの関連を明らかにした。自傷歴のないBD若年者は,より強い自制心と低いリスクテイクを示した。この知見は,自殺リスクを低減する補償的なプロセスが反映されたものである可能性がある。

自殺リスクのあるBD若年者の神経生物学的な特徴を理解することは,自殺予防戦略の策定に寄与する可能性がある。また,本研究は,自殺予防に関する知識のギャップを埋め,より効果的な自殺リスク予測と予防戦略の開発に貢献することが期待される。今後の研究では,BDを持つ若年者の神経認知機能と自傷行為の時間的関連について縦断的に調査することが重要であり,それによって自殺リスク予測の精度が高まることが期待される。

本研究は,BDを持つ若年者における自傷行為とリスクに敏感な意思決定との関連を詳細に検討し,自傷行為の発生メカニズムと予防策に関する重要な知見を提供している。

265号(No.1)2024年4月11日公開

(上野 文彦)

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