双極性障害に対する薬物療法の実際の有効性について:フィンランドの登録ベースの全国コホート研究

BR J PSYCHIATRY, 223, 456-464, 2023 Real-World Effectiveness of Pharmacological Treatments for Bipolar Disorder: Register-Based National Cohort Study. Lähteenvuo, M., Paljärvi, T., Tanskanen, A., et al.

背景

双極性障害は世界人口の1%超が罹患する重篤な慢性精神疾患であり,入院の必要性,自殺のリスクも高く,患者の30〜50%が自殺企図を行っている。

様々なタイプの患者を組み入れて双極性障害の治療の有効性と安全性の転帰を調査した,大規模な観察研究は不足している。

双極性障害患者のフィンランドの全国コホートにおいて,抗精神病薬と気分安定薬の有効性と安全性の比較を検討した,最大規模の観察コホート研究を紹介する。

方法

研究集団は,フィンランド全国登録に1987~2018年の間に双極性障害(ICD-10:F30~F31)の診断で登録された16~65歳の個人である。フィンランドでは各個人に固有の個人識別番号が割り当てられており,これにより研究期間中に登録簿間で参加者を確実に紐づけすることができた。

気分安定薬はカルバマゼピン,バルプロ酸,ラモトリギン,リチウムと定義し,抗精神病薬は経口薬と持効性注射剤(LAI)に分類した。薬物使用期間は,継続的な使用が開始されてから終了するまでの期間とし,PRE2DUP法を用いてモデル化した。薬物を使用した場合と使用しなかった場合の精神科入院を主要転帰,身体的入院を副次転帰として,被験者内Coxモデルを用いて推定した。

結果

全コホートには60,045名[女性56.4%,平均年齢41.7歳,標準偏差(SD)=15.8]が含まれ,平均追跡期間は9.3年(SD=6.4)であった。最もよく使用された抗精神病薬はクエチアピン,次いでオランザピン,リスペリドンであり,最もよく使用された気分安定薬はバルプロ酸,次いでラモトリギン,リチウムであった。

追跡期間中,104,093件の精神科入院が記録された。精神科入院の低リスクと関連した薬剤は,オランザピンLAI[補正ハザード比(aHR)=0.54,95%信頼区間(CI):0.37-0.80],zuclopenthixol*LAI(aHR=0.66,95%CI:0.52-0.85),リチウム(aHR=0.74,95%CI:0.71-0.76),クロザピン(aHR=0.75,95%CI:0.64-0.87)であった。Ziprasidone*(aHR=1.26,95%CI:1.07-1.49)のみが統計学的に高いリスクと関連していた。

追跡期間中,144,434件の身体的入院が記録された。薬剤のうち,リチウム(aHR=0.77,95%CI:0.74-0.81)とカルバマゼピン(aHR=0.91,95%CI:0.85-0.97)が身体的入院のリスクを有意に低下させた。

結論

リチウムと特定のLAI抗精神病薬は精神科入院のリスクを低くした。リチウムは精神科と身体科の両方の入院リスクを低下させた唯一の治療法であった。

265号(No.1)2024年4月11日公開

(内沼 虹衣菜)

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