心房細動に対するカテーテルアブレーション治療と薬物療法が精神的苦痛に及ぼす効果の比較:無作為化臨床試験

JAMA, 330, 925-933, 2023 Atrial Fibrillation Catheter Ablation vs Medical Therapy and Psychological Distress: A Randomized Clinical Trial. Al-Kaisey, A. M., Parameswaran, R., Bryant, C., et al.

背景

心房細動とメンタルヘルスの関係が注目を浴びている。2018年の報告によると,心房細動の医学的管理が必要とされた人の約3分の1が重篤な抑うつと不安を呈する。カテーテルアブレーション治療は薬物療法単独と比較して心房細動に伴う身体症状を緩和し,健康に関連した生活の質を向上させることが示されてきた。また,数多くの非無作為化試験及び観察研究でカテーテルアブレーション治療が抑うつや不安といった精神的苦痛に対して,良い効果があることが示唆されてきた。しかし,主要評価項目として抑うつ及び不安を含む精神的苦痛の尺度を評価した無作為化試験はこれまでになかった。本研究の目的は,心房細動の医学的管理が必要とされた人の精神的苦痛の有病率を調べ,精神的苦痛(抑うつと不安)の指標に対する影響を,カテーテルアブレーション治療と薬物加療とで比較することである。

方法

本研究は,結果を盲検化して評価した,研究者主導の多施設共同無作為化臨床試験である。参加者は豪州の二つの心房細動の専門治療機関で,2018年6月~2020年3月に心房細動の治療のために紹介された中から募集した。組み入れ基準は,米国心臓病学会/米国心臓協会/米国不整脈学会による心房細動治療ガイドライン(2014)で発作性または持続性心房細動と診断され,少なくとも2種類の抗不整脈薬を服薬することができ,同意能力があり,18~80歳であることとした。抑うつ症状が重度の者は除外した。参加者は,薬物療法を受ける群とカテーテルアブレーション治療を受ける群の2群に,通し番号入りの不透明な封筒を用いて1:1で割り付けられた。参加者を追跡して精神的苦痛,心房細動の症状及び心房細動負担を評価する研究者は,治療群への割り付けについて盲検化された。

精神的苦痛に関する評価には,病院不安抑うつ尺度(Hospital Anxiety and Depression Scale:HADS),ベック抑うつ質問票(Beck Depression Inventory:BDI)-Ⅱ,タイプD尺度(Type D Scale)-14を用いた。HADSは精神的苦痛の有無を評価し,身体疾患治療に対する反応における症状の進行または改善を捉えるために用いた。BDI-Ⅱは自記式検査で,抑うつ症状の測定と自傷行為のスクリーニングに用いた。タイプD尺度-14は,臨床的な有害事象発生及び心疾患患者における心機能予後不良の予測因子であるタイプDパーソナリティの評価に最も広く用いられている質問票である。HADS及びBDI-Ⅱによる評価は基準時点(組み入れ時),3ヶ月後,6ヶ月後,12ヶ月後に行い,タイプD尺度-14による評価は基準時点で行った。

主要評価項目はHADSの総評点,副次評価項目は重篤な精神的苦痛の有無(HADSの総評点が15以上),HADSの下位項目(抑うつ,不安),BDI-Ⅱとした。

結果

100名が組み入れられ,4名が追跡中に脱落し,試験を完遂したのはカテーテルアブレーション治療群で49名,薬物療法群で47名であった。参加者の平均年齢は59[標準偏差(SD)12]歳であり,31名(32%)が女性であった。無作為化した指標に2群間で有意な差はなかった。

カテーテルアブレーション治療群では薬物療法群と比較して,HADSの総評点の平均(SD)が6ヶ月後に8.2(5.4)点 vs 11.9(7.2)点(p=0.006),12ヶ月後に7.6(5.3)点 vs 11.8(8.6)点(群間差=−4.17,95%CI:−7.04-−1.31;p=0.005]と,有意に低下していた。

副次評価項目においても,全ての評価項目においてカテーテルアブレーション治療群で薬物療法群と比較して有意に改善が見られ,カテーテルアブレーション治療群と薬物療法群において,重篤な精神的苦痛を持つ割合は,6ヶ月後で14.2% vs 34%(p=0.01),12ヶ月後で10.2% vs 31.9%(p=0.01),HADSの不安評点の平均(SD)は6ヶ月後で4.7(3.3)点 vs 6.4(3.9)点(p=0.02),12ヶ月後で4.5(3.3)点 vs 6.6(4.8)点(p=0.01),HADSの抑うつ評点の平均(SD)は3ヶ月後で3.7(2.6)点 vs 5.2(4.0)点(p=0.04),6ヶ月後で3.4(2.7)点 vs 5.5(3.9)点(p=0.004),12ヶ月後で3.1(2.6)点 vs 5.2(3.9)点(p=0.004),BDI-Ⅱの評点の平均(SD)は6ヶ月後で7.2(6.1)点 vs 11.5(9.0)点(p=0.01),12ヶ月後で6.6(7.2)点 vs 10.9(8.2)点(p=0.01)であった。

結論

発作性または持続性心房細動患者ではカテーテル治療によって抑うつ及び不安の改善が見られるが,薬物療法では見られなかった。

265号(No.1)2024年4月11日公開

(黒瀬 心)

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