22q11.2遺伝子座のコピー数多様体を持つ個人における線条体ドパミン変性とその精神病リスクへの意義:[18F]-DOPA PET研究

MOL PSYCHIATRY, 28, 1995-2006, 2023 Striatal Dopaminergic Alterations in Individuals With Copy Number Variants at the 22q11.2 Genetic Locus and their Implications for Psychosis Risk: A [18F]-DOPA PET Study. Rogdaki, M., Devroye, C., Ciampoli, M., et al.

背景

統合失調症の主要な病因仮説はドパミン(DA)作動性システムの調節障害である。放射性標識されたDOPAを用いた分子イメージングは,in vivoのDA合成能(Dopamine synthesis capacity:DSC)の指標として用いられている。

22q11.2変異の保因者は精神病を発症するリスクが非常に高く,対照的に,22q11.2重複というコピー数の相互多様体は,一般集団と比較して統合失調症のリスクを有意に低下させる。しかしながら,著者らの知る限り,22q11.2欠失保因者におけるDSCや,22q11.2重複保因者におけるDA機能を調査した研究はない。

そこで,DSCと遺伝リスクの間に,22q11.2重複保因者ではDSCが最も低く,22q11.2欠失保因者ではDSCが最も高いという線形関係が見られるかどうかを検証した。

方法

22q11.2欠失の21名と重複12名,更に26名の健常対照者を募集した。22q11.2欠失群及び重複群はComprehensive Assessment of At Risk Mental States(CAARMS)を用いて評価し,精神病の臨床的高リスクである基準を満たすかどうか判定した。陽電子放出断層撮影法(PET)スキャンの1時間前に,カルビドパ150mgとエンタカポン400mgを経口投与して放射性標識代謝物の生成を防いだ上で[18F]-DOPAを投与し,PETスキャンを行った。

主要転帰は線条体全体の流入速度定数(Kicer)とした。統合失調症におけるDA作動性変化は連合線条体においてより顕著であるというエビデンスがあることから,機能的下位区分(連合性,辺縁系,感覚運動系)における副次解析も行った。

主解析では,線条体全体のKicerを従属変数とし,群を独立変数とする線形回帰モデルを用いた。これが有意であった場合には,Tukeyの検定を用いて多重比較を補正した上で独立t検定を用いて群間比較を行った。更に症状評点を従属変数,Kicerを独立変数とし,群を付加因子とする線形回帰モデルを用いて,Kicerと臨床尺度の評点との関係を検証した。

結果

Kicerで測定したDSCは,22q11.2欠失群>健常対照群>22q11.2重複群の順で高かった(図)。事後解析において,22q11.2欠失群では健常対照群及び22q11.2重複群と比較して,全ての線条体機能的下位区分でKicerが大きいことが示された(いずれもp<0.001)。年齢,注射活性,知能指数,頭部の動きが結果に影響するかどうかを調べたところ,全てKicerと無関係であった。

22q11.2欠失群では重複群及び対照群に比べて,線条体の連合性領域内の左右の被殻を焦点とする二つのボクセルクラスターで有意に大きなKicerが認められた(いずれもp<0.05)。

22q11.2遺伝子座のコピー数多様体を有する群では,線条体全体のKicerとCAARMSで測定した潜在性陽性症状の重症度との間に有意な相関関係が認められた(B=730.5,SE=310.2,p=0.025,R2=0.15)。

考察

本研究では,22q11.2欠失のある群は健常対照群と比して線条体Kicerが高く,更に,健常対照者は重複のある人よりも線条体Kicerが高いことが示された。更に,Kicerは潜在性陽性精神病症状の重症度と相関していた。

DSCの増加の大きさは線条体の全ての機能的下位区分で同等であったが,これは,辺縁系線条体よりも背側線条体でより大きなDA作動性変化を示した統合失調症に関する最新のメタ解析の結果とは対照的である。このことは特発性の統合失調症と22q11.2欠失に伴う統合失調症の病態生理の違いを示唆している可能性がある。もう一つの可能性として,22q11.2欠失は全ての機能小区分に影響を及ぼすが,その後のストレスにより,統合失調症を発症する22q11.2保因者の背側線条体で変化がより顕著になることが考えられ,これは精神病のストレス脆弱性モデルと一致する。

22q11.2欠失保因者における今回の知見のもっともらしい解釈は,異化作用の低下と終末における小胞モノアミントランスポーター濃度の上昇により,小胞における[18F]-DAの合成と貯蔵が増加しているということである。このことは,DA合成または貯蔵を標的とすることが,22q11.2保因者の精神病に対する新しい治療戦略となり得ることを示唆している。

結論

本研究は,22q11.2欠失を有する抗精神病薬非投与者では,対照者と比較して線条体DSCが高く,DSCは潜在性精神病リスクと関連していることを示した。このことは,線条体DSCの変化が,精神病の遺伝的リスクと潜在性精神病症状の発症を媒介するメカニズムである可能性を示唆している。

図.線条体全体におけるK<sup>icer</sup>(1/分)で測定したドパミン合成能

265号(No.1)2024年4月11日公開

(三村 悠)

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