統合失調症における脳内グルタミン酸濃度のバラつきと変化の程度:メタ解析とメガ解析

MOL PSYCHIATRY, 28, 2039-2048, 2023 Variability and Magnitude of Brain Glutamate Levels in Schizophrenia: A Meta and Mega-Analysis. Merritt, K., McCutcheon, R. A., Aleman, A., et al.

背景

グルタミン酸系の機能異常は統合失調症の病因に関連していることが想定されている。過去のメタ解析では,健常者と比較して統合失調症で,基底核におけるグルタミン酸やGlx(グルタミン酸とグルタミンの複合体)の値の上昇,視床におけるグルタミンの上昇,内側前頭前皮質(MFC)におけるグルタミン酸の低下が報告されている。MFCにおけるグルタミン酸の低下については二つのメタ解析では否定的であるが,治療抵抗性でない患者においては低下が報告されている。しかし,これらのグルタミン酸系の変化が個人により異なるかどうかはわかっていない。もしグルタミン酸系の変化のバラつきが大きい場合,データ分布は単峰性なのか,それとも亜型の存在を示唆する二峰性となるのかどうかはわかっていない。

本研究では核磁気共鳴スペクトロスコピー(MRS)で測定されるグルタミン酸系の値が統合失調症においてバラつきが大きいかどうか,データの分布が二峰性を示すかどうかを,それぞれメタ解析,メガ解析の手法を用いて調べた。

方法

文献検索はMEDLINEとEMBASEを用いて行い,2022年9月23日までに出版された論文から,統合失調症群と健常群を比較し,グルタミン酸,グルタミン,Glxのいずれかの解析結果を報告している論文をメタ解析の対象とした。臨床的あるいは遺伝的ハイリスク集団における研究は別に報告されているため,今回の解析からは除外した。

データ抽出に関しては,平均と標準偏差を1名が抽出し,2名が独立して確認した。MRSの測定部位は以下の6ヶ所とした。①MFCと前帯状皮質,②背外側前頭前皮質(DLPFC),③前頭葉白質,④視床,⑤側頭葉,⑥基底核。

統合失調症群と健常群の間の相対的なバラつきを定量化するために,対数変動係数比(log coefficient of variation ratio:CVR)を計算した。グルタミン酸系の測定値の群間差はランダム効果モデルを用いて標準化平均差(Hedges’ g)を計算した。

33の研究のデータに関しては個人レベルのデータ解析(メガ解析)を行った。

結果

2,527の論文のうち,123の研究(統合失調症8,256名,健常者7,532名)をメタ解析に組み入れた。

MFCにおいて,健常群と比較して統合失調症群ではグルタミン酸(CVR=0.15,p<0.001,65研究),グルタミン(CVR=0.15,p=0.003,26研究),Glx(CVR=0.11,p=0.002,54研究)の全てでバラつきの有意な増加が認められた(図)。MFCにおけるCVRは高齢,重症な患者においてより大きかった。DLPFCにおいてはグルタミン(CVR=0.14,p=0.05,8研究)とGlx(CVR=0.24,p<0.001,22研究)で,視床においてはグルタミン酸(CVR=0.16,p=0.008,14研究)とGlx(CVR=0.19,p=0.008,13 研究)で統合失調症群におけるCVRの有意な増加が認められた(図)。個人レベルのデータ解析を行ったところ,グルタミン酸系のデータ分布は単峰性を示していた。

MFCにおいて,健常群と比較して統合失調症群ではグルタミン酸濃度の有意な低下が認められた(g=-0.15,95%CI:-0.29--0.01,p=0.03,65研究)。男性の割合が多い研究ほどグルタミン酸の低下の差が大きかった。しかし,多重比較補正後にMFCにおける群間差は有意ではなくなった。視床においてはグルタミン濃度の有意な上昇(g=0.53,95% CI:0.30-0.75,p<0.001,6研究),基底核においてはGlx濃度の有意な上昇(g=0.28,95%CI:0.12-0.44,p<0.001,18研究)が認められ,その他の部位では群間差は認められなかった。

考察

本研究の結果は,グルタミン酸系の調節障害の程度には統合失調症の個人間において幅があることを示唆している。個人レベルのデータ解析において,データ分布は単峰性であった。これはグルタミン酸経路の病態が,患者間で異なる因子(複数の遺伝子や多くの環境要因など)から二次的に起こってきたものであるという見解と一致する。過去の研究で治療抵抗性患者においてグルタミン酸濃度が上昇していたという結果は,治療抵抗性の患者は別の亜型であるというよりも,治療反応性の患者と連続的な繋がりがあるということかもしれない。

本研究の限界としては,研究間の異質性が高かったこと,測定するボクセルの位置が研究間で異なっていたため部位の特異性に限界があることなどが挙げられる。

結論

統合失調症において,健常者と比べた際に,MRSによるグルタミン酸の測定値のバラつきの大きさ,平均値の違いが認められた。グルタミン酸系異常のメカニズム,グルタミン酸系の異常のスペクトラムに沿った臨床転帰の同定を行うことによって,グルタミン酸をターゲットとした治療が特に有効な特定のサブグループの同定に繋がるかもしれない。

図.統合失調症患者と健常群におけるグルタミン酸系測定の変動係数比(coefficient of variation ratio:CVR)のエフェクトサイズの概要を示すフォレストプロット

265号(No.1)2024年4月11日公開

(髙宮 彰紘)

このウィンドウを閉じる際には、ブラウザの「閉じる」ボタンを押してください。