イングランドでの統合失調症とその他の再発性精神病性障害の患者における抗精神病薬の減量及び中止対維持治療(RADAR試験):非盲検並行群間無作為化対照試験

LANCET PSYCHIATRY, 10, 848-859, 2023 Antipsychotic Dose Reduction and Discontinuation versus Maintenance Treatment in People With Schizophrenia and Other Recurrent Psychotic Disorders in England (the RADAR Trial): An Open, Parallel-Group, Randomised Controlled Trial. Moncrieff, J., Crellin, N., Stansfeld, J., et al.

背景

統合失調症や再発性精神病性障害の患者には抗精神病薬の維持投与が推奨されているが,副作用の負担は大きい。臨床試験のメタ解析では,抗精神病薬を継続した患者に比べて減量または中止した患者で再燃率が高いことが示されているが,段階的な減量または長期的な効果の評価や,再燃以外の転帰の測定を行った試験はほとんどない。更に,初回エピソード精神病患者を対象とした試験結果や複数の自然経過研究のエビデンスは,抗精神病薬の段階的な減量と中止が長期的には社会機能の改善に関連する可能性を示唆している。

本試験は,抗精神病薬の段階的な減量プロセスの利害を,維持治療と比較して評価することを目的とした。抗精神病薬の減量は社会機能を改善し,短期的には再燃を増やすという仮説を立てた。

方法

RADAR試験はイングランドの19の国民保健サービストラストで2年間にわたって実施された非盲検の並行群間無作為化対照試験である。18歳以上で,非感情性の再発性精神病性障害と診断され,抗精神病薬を処方された患者を対象とした。除外基準には,過去1ヶ月間に精神的健康の危機や入院を経験した者,自傷他害のおそれがあると治療する医師によって見なされた者,精神保健法に基づき抗精神病薬の服薬が義務づけられた者などが含まれた。独立したインターネットベースのシステムを通じて,医師の経過観察下で段階的かつ柔軟に抗精神病薬を減量する群または維持治療群のいずれかに,参加者を無作為に割り付けた。治療の割り付けを参加者と医師は認識していたが,評価者はマスクされた。

主要転帰は追跡24ヶ月時点における社会機能とし,社会機能尺度(Social Functioning Scale:SFS)によって評価した。主な副次転帰は重篤な再燃とし,入院が必要なものと定義した。他の副次転帰は精神状態,生活の質,抗精神病薬の副作用,体重,就業状況などとした。

解析は治療企図(ITT)データを用い,群を盲検化して行った。

結果

4,157名が抽出され,そのうち253名を減量群126名と維持群127名に無作為に割り付けた。内訳は男性168名(66%),女性82名(32%),トランスジェンダー3名(1%)で,平均年齢は46歳(標準偏差12,22~79歳)であった。白人が171名(67%),黒人が52名(21%),アジア人が16名(6%),その他の民族が12名(5%)であった。174名(69%)が統合失調症,79名(31%)が他の精神病性障害と診断された。

試験中における最大の減量の中央値は減量群が基準時点の67%で,維持群がゼロであった。24ヶ月時点での減量の中央値は,減量群が基準時点の33%で,維持群がゼロであった。24ヶ月の追跡調査で,減量群に割り付けられた126名のうち90名,維持群に割り付けられた127名のうち94名を評価したところ,SFSの差はなかった[β 0.19,95%信頼区間(CI):-1.94-2.33;p=0.86](表)。

24ヶ月までに少なくとも1回の重篤な再燃を経験したのは,維持群では17名(13%)であったのに対し,減量群では32名(25%)で(オッズ比2.20,95%CI:1.15-4.22),10%の非劣性境界よりも大きかった。他の副次転帰には群間差はなかった。

考察

ほとんどの者は入院を必要とするほどの再燃を起こしていないが,数ヶ月かけて抗精神病薬の減量と中止を行う戦略は維持治療と比較して再燃リスクを高めることが示された。この戦略は2年後に社会機能を測定可能なほどに改善したり,他の転帰に影響を与えたりすることはなかった。本試験により,抗精神病薬の長期使用についての決断に役立つデータが得られた。

表.24ヶ月後の転帰

265号(No.1)2024年4月11日公開

(倉持 信)

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