【テーマ:COVID-19と自殺念慮①】
COVID-19パンデミックが自傷行為及び自傷・自殺念慮に及ぼす影響:集団規模のデータ連携研究と時系列分析

BR J PSYCHIATRY, 223, 509-517, 2023 Impact of the COVID-19 Pandemic on Self-Harm and Self-Harm/Suicide Ideation: Population-Wide Data Linkage Study and Time Series Analysis. Paterson, E. N., Kent, L., O'Reilly, D., et al.

背景

英国における新型コロナウイルス感染症(COVID-19)への対応策(物理的・社会的距離の確保を含む)やCOVID-19感染そのものへの曝露は,自傷行為のリスクを含め,集団の精神衛生に悪影響を及ぼすと予想される。

北アイルランドは,世界で唯一,自傷行為と自傷・自殺念慮の全国的な集団登録を行っている。本研究では,これらのデータを利用して,COVID-19の感染拡大とそれに関連した対応が,病院を受診した自傷行為及び自傷・自殺念慮に及ぼす影響を検討した。

方法

本研究では,国の中央医療カード登録システムに登録されている北アイルランド全人口の人口統計データを抽出し,これをNorthern Ireland Trusted Research Environment内の公衆衛生局の北アイルランド自傷行為登録(Public Health Agency’s Northern Ireland Registry of Self-Harm:NIRSH)と連携させた。このデータセットには,各患者の基本的な人口統計学的詳細と住所の情報に加え,他の医療システムのデータセットとの正確な照合を容易にする識別子である医療・介護番号が含まれている。患者の住所は,北アイルランドの多重窮乏度指数の所得領域に基づいて,その地域を窮乏度3分位(3分位1:最も窮乏,3分位3:最も窮乏でない)に分類するために使用した。

自己回帰和分移動平均(ARIMA)モデルを月次頻度データで学習させた。このアルゴリズムは,トレンドを除去するための差分化されたデータと,季節トレンドを除去するための最初の季節差に対して繰り返し適合を試み,自動的に最適な適合を選択する。次に,訓練されたARIMAモデルを用いて,「制限期間中」に自傷行為または自傷・自殺念慮を呈する人数を予測した。

結果

2012年4月~2020年9月に,北アイルランドで自傷行為や自傷・自殺念慮のために救急外来を受診した人数及び受診回数は41,400名及び111,779回で,男性が21,567名及び60,285回,女性が19,833名及び51,494回であった。大部分は自傷行為(74,791名,66.9%)であり,その約半数に自殺念慮が認められた(36,988名,33.1%)。

2020年3月(英国初のCOVID-19関連ロックダウンの開始)には,受診者数が急激に減少し,その後2020年5月からは傾向が正常に戻った。

ARIMAモデルで自傷行為や自傷・自殺念慮で受診する人数の傾向を調べると,母集団レベルでは,北アイルランドでの規制開始直後の2ヶ月間(2020年3~4月)に救急外来を受診する人数が予想より少なく,その後5~7月に人数が予想レベルに近づくが,8月と9月には予想レベルをわずかに下回った。調査した7ヶ月のうち5ヶ月で,自傷行為または自傷・自殺念慮で受診した人数は予測値を下回った。

年齢で層別化すると(図),ほとんどの年齢層が最初の2~3ヶ月で大きく減少し,その後予想される水準に戻るという同じパターンをたどったが,65歳以上の高齢者では,自傷行為や自傷・自殺念慮のための受診が予想される水準内で続き,パンデミックの影響を受けなかったようであった。16歳未満では2020年3月には受診者数の減少がかなり少なかったが,9月までには予想を上回った。パンデミックの最初の2~3ヶ月における自傷行為や自傷・自殺念慮の受診者数の大幅な減少は,一人暮らしの人や裕福な地域に住む人では観察されず,予想どおりの数であった。

結論

本研究では,自傷行為や自傷・自殺念慮の受診特性における年齢差も観察され,16歳未満の受診者数が増加傾向にあった。更に,神経精神障害や神経発達障害など,特別なニーズを持つ子どもたちは,学校の閉鎖,通常のケアの減少,社会的支援の減少をもたらすこととなった最初のパンデミック/制限に対処することが困難であったため,その結果,自傷行為が増加した可能性がある。

図.北アイルランドにおけるCOVID-19感染拡大/感染制限の最初の7ヶ月間に、自傷行為や自傷・自殺念慮を呈した予測人数と実人数を年齢別に示した自己回帰和分移動平均(ARIMA)。

265号(No.1)2024年4月11日公開

(大谷 愛)

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