統合失調症治療薬としてのSDAラツーダを再考する
―リスペリドン非劣性DB試験を踏まえて―

髙塩 理 先生

昭和大学病院附属東病院 精神神経科 准教授

髙塩 理 先生

ラツーダは、精巧なSDAを目指して創薬されたDesigned SDAです。このラツーダの有用性を検討した臨床試験のひとつが、「リスペリドン非劣性DB(Double Blind)試験」です。
そこで本コンテンツでは、「統合失調症治療薬としてのSDAラツーダを再考する―リスペリドン非劣性DB試験を踏まえて―」をテーマに、昭和大学病院附属東病院 精神神経科 准教授 髙塩 理 先生よりご解説いただきました。

これからの統合失調症治療で求められていること

これからの統合失調症治療では、「早期介入」、「リハビリテーション」、「病院から地域移行」といった視点を考慮し治療方針を検討することが求められていると思います。
「早期介入」については、従来からいわれているとおり、初回エピソード精神病(First Episode Psychosis:FEP)や精神病発症危険状態(At Risk Mental State:ARMS)からの、できるだけ早い段階での治療介入が求められます。
「リハビリテーション」については、認知機能や社会機能の改善を重視しながら、入院中から退院後までサポートしていく必要があります。
「病院から地域移行」については、患者さんが地域で自分らしく生活できるようになるために、地域包括ケアシステムをより充実させることが望まれます。
統合失調症治療は薬物療法が基本となりますので、薬剤を選択する際には、このような「早期介入」、「リハビリテーション」、「病院から地域移行」を達成できるような薬剤を選択することが重要です。

これからの統合失調症治療に求められる抗精神病薬とは

これからの統合失調症治療に求められる抗精神病薬とは、『DANCE』がキーワードになると考えています。
『D』は、ドパミン過感受性精神病(Dopamine Supersensitivity Psychosis:DSP)になりにくいことです。たとえば、セロトニン5-HT2A受容体遮断作用が強い薬剤は、弱い薬剤よりもDSPになりにくいと考えられています。
『A』は、アドヒアランス(Adherence)を良好に保つことです。飲み忘れをしにくいような剤形や、投与回数が少ない薬剤を選択します。
『N』は急がない(No rush)ことです。治療を急ぐのではなく、患者さんと相談しながら、患者さんが受け入れてくれる薬剤を選択します。
『C』は合併症(Complication)を起こしにくい、または合併症に悪さしにくいことです。
『E』は効果(Efficacy)があることです。陽性症状だけでなく、陰性症状も改善するような薬剤が理想的です。
これからの統合失調症治療では、このような『DANCE』を満たす薬剤を選択していくことが非常に重要だと考えています。

ラツーダらしさとは

先ほどお示しした『DANCE』を満たす薬剤のひとつが、ラツーダだと考えています。

Designed SDAのラツーダは、統合失調症の中核症状への効果を保ち、患者さんが困っている体重増加、糖・脂質代謝異常、過鎮静、認知機能障害といった副作用を軽減した精巧なSDAの創薬を目指して開発されました。

陽性症状・興奮に加えて、陰性症状、不安・抑うつ効果があり、認知機能に対する効果がある又は悪影響が少ない薬剤になることを目指しました。

ラツーダの受容体プロファイル

ラツーダは、SDAの特徴であるセロトニン5-HT2A、ドパミンD2受容体に対しアンタゴニストとして作用します。さらに、気分症状改善や認知機能改善効果を示す可能性のあるセロトニン5-HT7受容体に対してアンタゴニストとして、セロトニン5-HT1A受容体に対してはパーシャルアゴニストとして作用します。
一方、過鎮静、食欲亢進、体重増加などに関与するヒスタミンH1受容体や、口内乾燥、便秘、尿閉などに関与するムスカリンM1受容体には、Ki値が1,000nM以上とほとんど作用しません。

本邦で上市されている抗精神病薬の受容体結合親和性はこちらに示すとおりで、SDAとしてはラツーダの他に、リスペリドン、パリペリドンなどが挙げられます。

この受容体結合親和性について、シェーマでお示しします。横軸の数値が小さいほど受容体に強く結合することを意味しています。
SDAの特徴である陰性症状などに関与するセロトニン5-HT2A受容体に対するラツーダの親和性は0.47nM、陽性症状などに関与するドパミンD2受容体に対する親和性は0.994nM、気分症状改善や認知機能改善効果などに関与する可能性のあるセロトニン5-HT7受容体、セロトニン5-HT1A受容体に対する親和性はそれぞれ0.495nM、6.38nMとなっています。
一方、体重増加などに関与するセロトニン5-HT2C受容体に対するラツーダの親和性は415nM、起立性低血圧などに関与するアドレナリンα1受容体に対する親和性は47.9nM、過鎮静、食欲亢進、体重増加などに関与するヒスタミンH1受容体や、口内乾燥、便秘、尿閉などに関与するムスカリンM1受容体に対する親和性はともに1,000nM以上となっています。

参考までにSDAであるリスペリドンの受容体結合親和性をシェーマでお示しします。

ラツーダはよくDesignされたSDAといった特徴がある薬剤であることがわかります。

では、ラツーダの実際の効果はどのようなものだったのでしょうか。ここからラツーダと代表的なSDAのリスペリドンとの非劣性試験をみていきます。

リスペリドン非劣性DB試験(海外第3相試験):試験概要

*Double Blind

リスペリドン非劣性DB(Double Blind)試験は、入院を要する統合失調症患者さんにラツーダを投与したときの有効性を、リスペリドンと比較し、非劣性を検証した試験です。
対象は入院を要する統合失調症患者388例で、ラツーダ40-80mg群、リスペリドン4-6mg群に無作為に割り付け、ラツーダ40又は80mg、リスペリドン4又は6mgを1日1回、夕食後に6週間経口投与しました。

主な選択基準は、CGI-Sスコアが4以上、PANSS合計スコアが70以上120以下の患者などでした。
また、ここが本試験のポイントのひとつですが、過去にリスペリドンで効果不十分、又はリスペリドンに対する忍容性が認められない患者は除外されていました。

リスペリドン非劣性DB試験(海外第3相試験):
6週時のPANSS合計スコアのベースラインからの変化量

主要評価項目である6週時のPANSS合計スコアのベースラインからの変化量は、ラツーダ40-80mg群で-31.2、リスペリドン4-6mg群で-34.9でした。群間差[95%信頼区間]は3.7[1.0, 6.3]であり、非劣性マージンの上限7.0を下回ったことから、ラツーダのリスペリドンに対する非劣性が検証されました。
また、PANSS合計スコアのベースラインからの変化量の推移は右図に示すとおりでした。

リスペリドン非劣性DB試験(海外第3相試験):
6週時のPANSSサブスケール別スコアのベースラインからの変化量

副次評価項目である6週時のPANSSサブスケール別スコアのベースラインからの変化量の推移は、図に示すとおりでした。

リスペリドン非劣性DB試験(海外第3相試験):安全性

有害事象発現頻度は、ラツーダ40-80mg群69.1%、リスペリドン4-6mg群83.8%でした。いずれかの群で発現頻度が5%以上であった有害事象はご覧のとおりです。ラツーダ40-80mg群、リスペリドン4-6mg群の順に、錐体外路障害17.0%、38.2%、アカシジア7.2%、13.6%、不安6.2%、6.3%、不眠症9.8%、9.9%、体重増加0.5%、5.2%、便秘12.9%、14.7%、鼻咽頭炎9.8%、14.7%、上気道感染5.2%、8.4%、血中プロラクチン増加3.1%、14.1%でした。
本試験における重篤な有害事象は、ラツーダ40-80mg群1例1件に手の骨折が認められ、リスペリドン4-6mg群は0例でした。
投与中止に至った有害事象は、ラツーダ40-80mg群4例4件、リスペリドン4-6mg群9例10件に認められました(内訳に関しては記載なし)。
なお、試験期間中、いずれの群においても死亡は報告されませんでした。

私の考えるラツーダの位置づけと使用を検討するケース

ラツーダは、早期に社会復帰が求められる初発例や幻覚や妄想など陽性症状が前景のケース、情動にアプローチをしたいケースや、認知機能・発動性低下などの陰性症状の改善を期待したいケースなどに適した選択肢になると思います。
また、体重変化やEPS、眠気や高プロラクチン血症など安全性を考慮するケースなどにも、ラツーダは良い選択肢のひとつになるのではないかと思います。

ラツーダへの切り替え方法

SDAからラツーダへ切り替える場合は、前治療薬を漸減しながら、ラツーダ40mgを上乗せします。たとえば、前治療薬としてリスペリドン8mgを服用している場合は、4mgへ減量するか、もしくは6mg、4mgと徐々に減量します。ラツーダは40mgで開始し、効果不十分で忍容性に問題がない場合は、80mgへの増量を検討します。

急性期統合失調症治療では、
入院中から退院後の生活を考慮した薬剤選択が求められます。
本日紹介したラツーダの特徴やリスペリドン非劣性DB試験の結果を踏まえると、
ラツーダ40-80mgは退院後を見据えたより良い急性期統合失調症治療に適した
選択肢のひとつになるのではないかと考えています。

髙塩 理 先生

ラツーダ錠20mg/錠40mg/錠60mg/錠80mgの製品基本情報(適正使用情報など)

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