統合失調症外来患者において社交不安の変化が社会機能とQOLに及ぼす影響:縦断的自然経過追跡研究

Journal of Psychiatric Research, 131, 15-21, 2020 Impact of Changes in Social Anxiety on Social Functioning and Quality of Life in Outpatients With Schizophrenia: A naturalistic Longitudinal Study. Takahiro Nemoto, Takashi Uchino, Sayaka Aikawa, Satoshi Matsuo, Noriyuki Mamiya, Yoshiyuki Shibasaki, Yo Wada, Taiju Yamaguchi, Naoyuki Katagiri, Naohisa Tsujino, Tomohiro Usami, Masafumi Mizuno

根本 隆洋

東邦大学医学部精神神経医学講座

根本 隆洋氏 写真

はじめに

統合失調症においては,日常生活や対人関係に関する社会機能の障害が,患者の社会参加を妨げ生活の質(QOL)を低下させている。しかし,依然としてそれらに対する有効な治療法に乏しいのが現状で,社会機能障害を決定する因子の探索が重ねられてきた。一方,わが国の対人恐怖症の概念に近い社交不安症は,対人場面への恐れや回避行動を主症状とし,生涯罹患率は13.3%とも報告され,うつ病,アルコール依存に次いで高いとされている。その症状は統合失調症患者においても高率に合併することが知られ,陽性・陰性症状,認知機能,リカバリーなど,様々な臨床的指標との関連が報告されている。

筆者らは先行研究において,207名の統合失調症患者を対象に横断研究を行い,半数以上に社交不安症状が見られること,及びその重症度と精神病未治療期間や社会機能との間に有意な相関が見られることを明らかにした(Aikawa et al., PSYCHIATRY RES, 2018)。更に,社交不安症状が社会機能に関する「能力」と「実行状況」の乖離に関係していることも報告した(Nemoto et al., PSYCHIARTY CLIN NEUROSCI, 2019)。これらを踏まえ,本研究では,対象患者を長期にわたり縦断的に観察調査することにより,社交不安症状の変化が社会機能やQOLをはじめとする様々な臨床的指標に,いかに影響を及ぼすかについて検討した。

方法

先行研究に参加した患者207名のうち,第2回目の追跡調査に同意した118名(男性57名,女性61名)が本研究の対象となった。初回評価時における平均年齢は29.9歳,平均罹病期間は7.3年であった。初回時に引き続いて追跡調査においても,社交不安の評価にLiebowitz Social Anxiety Scale(LSAS),その他の精神症状及び重症度はPositive and Negative Syndrome Scale(PANSS),Calgary Depression Scale for Schizophrenia (CDSS),Clinical Global Impressions Severity scale(CGI-S),社会機能の評価にはSocial Functioning Scale(SFS),全般的機能はGlobal Assessment of Functioning scale(GAF),QOLの評価にはWorld Health Organization Quality of Life scale Brief version(WHOQOL-BREF),Subjective Well-being under Neuroleptic drug treatment Short form(SWNS)を用いた。また,病識,神経認知機能,社会認知なども含め,症状や機能を広範囲に測定した。

結果

初回時から追跡時評価までの平均間隔期間は695.8日であった。重回帰分析において,社会機能尺度(SFS)評点の変化量に対して,多くの検査や尺度の中で,社交不安症状尺度(LSAS)評点の変化量が統計学的に有意に(p<0.0001)関与していた(図b)。また,2種類のQOL尺度(WHOQOL-BREF及びSWNS)評点の変化量に対しても,LSAS評点の変化量が有意に関与していた(図f,図h)。

結論

本研究は統合失調症における社交不安症状を,大規模な症例数で長期的に調査した世界初の研究でああり,縦断的な検討により社交不安と社会機能やQOLとの因果関係を明らかにすることができた。様々な指標の中でも特に社交不安症状の重症度の変化が,患者の社会生活やその質の変化に有意な影響を及ぼすことが示されたことにより,同症状が重要な治療標的になると考えられた。統合失調症の社交不安を標的症状とした薬物療法や心理社会的な治療法の開発により,患者の社会復帰や社会参加,リカバリーが促進される可能性が示唆され,新たな治療的アプローチとして期待される。

2021年04月 [no.2(248号)]

図.社会機能やQOLの変化に関与する臨床指標、重回帰分析の結果と散布図

(根本 隆洋)

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