704,297名の小児思春期に対する抗精神病薬と抗うつ薬の処方動向:知的障害の有無による検討を行った記録連結調査

BR J PSYCHIATRY, 218, 58-62, 2021 Antipsychotic and Antidepressant Prescribing for 704 297 Children and Young People With and Without Intellectual Disabilities: Record Linkage Study. Henderson, A., Kinnear, D., Fleming, M., et al.

背景

抗精神病薬や抗うつ薬は知的障害のある成人に過剰処方されていることが知られている。抗精神病薬は,攻撃性,破壊的行動,多動性などの問題行動を伴う知的障害のある小児においても「適応外」で処方されている。有効性のエビデンスはいくつかあるが,特にリスペリドンについては,エビデンスの質が低く,副作用が問題となっている。しかしながら,知的障害患児を対象とした処方動向の調査研究は乏しい。

本研究では,知的障害のある小児及び知的障害のない小児における抗精神病薬及び抗うつ薬の処方動向を縦断的に調査した。

方法

スコットランドでは,毎年学童調査が行われており,小児及び青年の95%を網羅している。本研究では2010~2013年に行われた四つの調査を用いて,4~19歳の知的障害のある小児とない小児を同定した(知的障害の条件は,データ抽出ミスを防ぐため,2学年以上にわたり知的障害の判定の記録があることとした)。学童調査のデータをScotland’s Prescribing Information Systemに紐づけて,全参加者の抗精神病薬と抗うつ薬の処方データを抽出した。

知的障害の有無と処方傾向を分析するために,年齢・性別・調査年で調整したロジスティック回帰分析を用いた。

結果

対象となった704,297名の児のうち,16,142名(2.29%)が知的障害を有していた。知的障害を有する児の平均年齢は9.53±3.55歳で,知的障害のない児では9.22±3.96歳であった。

抗精神病薬と抗うつ薬の処方は時間の経過と共に増加し,年長になるほど,また調査年が新しいほど多かった。抗精神病薬の処方は男児で,抗うつ薬の処方は女児で多かった。

全体として,抗精神病薬が処方されたのは知的障害のある児で281名(1.74%)と知的障害のない児で802名(0.12%)であった[調整オッズ比16.85,95%信頼区間(CI):15.29-18.56](表A)。結果は調査年によって変動があったため,サブグループ解析を行ったところ,知的障害のある児の相対的な抗精神病薬の処方率の高さは,年々低下していた(2010年の調整オッズ比20.19に対し,2013年では14.24)。

抗うつ薬については,全体では,知的障害のある児で191名(1.18%)と知的障害のない児で4,561名(0.66%)に処方されていた(調整オッズ比2.28,95%CI:2.03-2.56)(表B)。知的障害のある児の相対的な抗うつ薬の処方率の高さも同様に,年々低下していた(2010年の調整オッズ比3.10に対し,2013年は2.02)。

考察と結論

本研究の限界は,知的障害の重症度データがないこと,5%を占めるとされる就学していない層が抜けていること,保護者の精神状態・収入・職業・教育レベルなどの情報がないことであるが,本研究は世界で初めて,全国規模で前方視的かつ縦断的に,知的障害の有無によって小児及び青年の向精神薬処方傾向について調べたものである。

知的障害のある小児及び青年は,知的障害のない小児及び青年に比べて抗精神病薬と抗うつ薬を処方されていることが多いことが示された。また向精神薬の処方は年数の経過と共に,調査対象者全体において増加していたが,知的障害を有する小児及び青年においてはそうではなかった。これは,知的障害のある小児及び青年が知的障害のない小児及び青年と同じ治療の進歩の恩恵を受けていないか,過去に過剰処方されそれが続いているか,知的障害のない小児及び青年への処方が増えているか,のいずれかである。更なる縦断的なデータが必要であるが,精神科医がこれらの可能性について警戒し,児にとって有益な場合には向精神薬を処方し,有効な最低用量を使用し,明確な適応や有益性がない場合には向精神薬を中止することが重要である。 

2021年04月 [no.2(248号)]

表A.知的障害と抗精神病薬処方との関連を検討したロジスティック回帰分析
表B.知的障害と抗精神病薬処方との関連を検討したロジスティック回帰分析

(黒川 駿哉)

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