精神科入院中や退院直後の患者の高い自殺率について

ACTA PSYCHIATR SCAND, 142, 355-365, 2020 High Suicide Rates during Psychiatric Inpatient Stay and Shortly after Discharge. Madsen, T., Erlangsen, A., Hjorthøj, C., et al.

背景

世界中で自殺率が下がっているとはいえ,自殺はいまだに特に重篤な精神症状を持つ患者において重要な公衆衛生上の問題であり,中でも精神科病棟入院中や退院直後の自殺率が高い。本研究ではデンマークの国内登録データを用いて,精神科病院の入院・退院からの時間経過と関連する,男女ごとの診断別の自殺率を計算すること,また入院歴の有無で自殺率を比較することを目的とした。また,1995~2016年における診断別の自殺率の傾向や精神科病院への入退院に関連する人口寄与危険度を調査した。

方法

コホートデザインを用いて,1995~2016年における15歳以上のデンマーク在住者を対象にした。精神科病棟への入院歴のある人々は,1969年以降の精神科入院施設の全入退院に関する縦断データを網羅している登録簿(Danish Psychiatric Central Registe)から特定した。参加者は現在入院中か,退院済みか,一度も入院したことがない者に分類した。

自殺例はDanish Cause of Death Registerを用いて特定した。自殺の定義は,ICD-10のX60~X84が該当するか,死因として「自殺」と記載されていることとした。

自殺率,人口寄与危険度,補正自殺率比は,精神科への入院歴がない者と比較して算出し,年齢・暦を補正したPoisson回帰分析を用いた。

結果

6,292,932名(男性3,118,534名,女性3,174,398名)が組み入れられた。そのうち,男性178,703名(5.7%)と女性201,033名(6.3%)が少なくとも1回は精神科病院に入院したことがあった。1995~2016年に自殺した15,075名(男性10,862名,女性4,213名)のうち,いずれかの時点で精神科病院に入院歴があったのは6,174名(41%;男性36%,女性55%)であった。入院中に自殺したのは791名(男性496名,女性295名)で,このうち男性38%(188/496)と女性26%(77/295)は入院1週間以内に死亡していた。入院1週間以内の自殺率は,10万人‐年当たり,男性3,409[95%信頼区間(CI):2,922-3,897],女性1,267(95%CI:984-1,551)であった。入院1週間以内の自殺率が最も高かった診断は,うつ病(男性5,713,女性1,710),不安及びストレス障害(男性3,948,女性1,414)であった。退院後では,男性7%(224/3,365),女性6%(123/2,018)が退院1週間以内に自殺し,粗死亡率は10万人‐年当たり,男性3,148(95%CI:2,736-3,561),女性1,631(95%CI:1,341-1,919)であり,自殺率が高かった診断はうつ病(男性4,554,女性2,197)と不安及びストレス障害(男性4,191,女性1,818)であった。

精神科病院への入院歴がない患者に対する入院患者の自殺率比は,男性100(95%CI:92-110)と女性206(95%CI:183-233)であった。

入院患者の自殺率は1995~2010年に年々2.5%低下(95%CI:1.3-3.8%,p<0.05)したが,2010年以降は年々7.5%上昇(95%CI:0.8-14.6%,p<0.05)している。退院後2週間以内及び3ヶ月以内の自殺率の傾向には変化がなかった。

人口寄与危険度からは,男性の6%の自殺と女性の13%の自殺は1週間以内の入院・退院に原因があると評価された。

結論

精神科への入退院歴がある人々で自殺率が高いことがわかったが,特に入院・退院共に1週間以内の自殺率が高かった。入院患者の自殺率は2009年以降上昇しており,特に不安ストレス障害を抱える男性で高かった。その一方で,退院患者の自殺率は,1995~2016年に低下しているが,精神科への入院歴は依然として高い自殺率の関連因子となっている。

2021年04月 [no.2(248号)]

(桐野 創)

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