入院時に精神科診断がついている患者では,自殺企図による外傷での死亡率が低い:日本における後方視的コホート研究

PSYCHIATRY RES, 293, 113456, 2020 Lower Mortality from Suicidal Trauma Among Patients With a Psychiatric Diagnosis upon Admission: Nationwide Japanese Retrospective Cohort Study. Ishida, T., Kuwahara, Y., Shibahashi, K., et al.

はじめに

自殺のハイリスク患者に精神科治療を提供することは自殺予防の要であると考えられている。精神科治療により自殺企図の重症度や死亡率が下がる可能性があるが,このような報告はほとんどない。

日本外傷データバンク(Japan Trauma Data Bank:JTDB)は日本救急医学会及び日本外傷学会により設立され,外傷入院患者のデータを収集しており,95%以上の救命センターが参加している。本研究の目的は,JTDBのデータを用いて,自殺企図による外傷で入院した患者のうち,入院時に精神科診断がついていた者の割合を年齢・性別ごとに明らかにすることと,精神科診断がついていた患者とついていなかった患者で院内死亡率・自殺企図の特徴を比較することである。

方法

2004~2015年の間に自殺企図外傷で入院した15~90歳の患者をJTDBから抽出した。受傷起点で欠損データがある患者は除外した。調査した項目は,年齢,性別,入院時の精神科診断の有無,院内死亡,受傷起点[飛び降り,刺傷,熱傷,交通外傷(電車),交通外傷(その他),銃創,その他],外傷部位(頭部,顔面,頸部,胸部,腹部骨盤部,脊椎,上肢,下肢,体表),Injury Severity Score(ISS),Revised Trauma Score (RTS)である。

まず,精神疾患の診断がついている患者の割合を,年齢・性別ごとにカイ二乗検定を用いて比較した。次に,精神科診断がついている群とついていない群で,多変量解析を用いて院内死亡率を比較した。また,飛び降りで受傷した群と刺傷で受傷した群のサブグループ解析を行い,院内死亡率を多変量解析で比較した。

結果

9,803名の患者が組み入れられ,年齢の中央値は42歳(IQR 29~59),5,010名(51.1%)が男性で,精神科診断がついている患者は4,878名(49.8%)であった。院内死亡率は14.8%であった。最も多い受傷起点は飛び降り(53.4%)で,次いで刺傷(32.3%),熱傷(6.2%)であった。精神科診断がついている患者の割合は男性で女性よりも低く(38.2% vs 61.8%, p<0.001),また10代と高齢者で低かった。

院内死亡率は精神科診断がついている群で,ついていない群よりも有意に低かった[10.9% vs 18.7%,調整済OR(aOR)=0.62,95%信頼区間(CI):0.51-0.75,p<0.001](表)。

サブグループ解析の結果,院内死亡率は,精神科診断がついている患者の方が,ついていない患者よりも,飛び降り群(11.7% vs 23.9%, aOR=0.58, 95%CI:0.45-0.73,p<0.001),刺傷群(2.9% vs 5.0%,aOR=0.56,95%CI:0.33-0.95,p=0.03)のいずれでも,有意に低かった。

結論

本研究では,入院時に精神科診断がついている患者ではついていない患者よりも,自殺企図による外傷での院内死亡率が低かった。一方で,精神科診断がついている患者の割合は50%程度で,男性,10代,高齢者で特に低かった。本研究の結果が,精神科治療による自殺企図の重症化予防効果を示しているかどうかは明らかではないが,自殺のハイリスク患者,特に男性,10代,高齢者に対して精神科医療サービスを効果的に提供する方法論を確立することが重要であると考えられる。

2021年04月 [no.2(248号)]

表.院内死亡の多変量回帰モデル

(石田 琢人)

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