双極性障害患者における急速交代型及び1年間の正常気分状態に関連した臨床的特徴について:精神科診療所における双極性障害患者を対象とした多施設治療調査(MUSUBI)

J PSYCHIATR RES, 131, 228-234, 2020 Clinical Features Related to Rapid Cycling and One-Year Euthymia in Bipolar Disorder Patients: A Multicenter Treatment Survey for Bipolar Disorder in Psychiatric Clinics (MUSUBI). Kato, M., Adachi, N., Kubota, Y., et al.

目的

双極性障害では,急速交代型(rapid cycling:RC)は重症化のリスクが高いのに対し,1年間の正常気分状態(one-year euthymia:OYE)の患者は予後が良好であることが示されている。しかし,RC及びOYEの患者背景や向精神薬処方について検討した大規模研究はほとんどない。

本研究の目的は,日本においてこれまでで最大規模の全国調査である,精神科診療所における双極性障害を対象とした多施設治療調査(multicenter treatment survey on BD in psychiatric clinics:MUSUBI)の大規模サンプル(2,609例)から,現在のRCとOYEという二つの相反する状態にある患者の臨床背景と処方特性を明らかにすることである。

方法

MUSUBIは,双極性障害症例を対象とした,後方視的カルテ調査に基づく横断研究である。2016年9~10月に質問票を176ヶ所の日本精神神経科診療所協会に所属する外来診療所に配布し,精神科医に記入を依頼した。質問票では,患者の背景,現在のエピソード,臨床的特徴,処方内容を収集した。RCの定義は,過去12ヶ月間に躁病,軽躁病,大うつ病の基準を満たす気分エピソードが4回以上あることとした。OYEの定義は,12ヶ月間以上にわたって正常気分状態を呈していることとした。

解析

Fisherの正確検定または分散分析を使用して単変量解析を行った。それに続いて,交絡因子の影響を避けるために,多変量ロジスティック回帰分析を行った。RCまたはOYEを従属変数とし,性別,年齢,発症年齢,体格指数(BMI),職業,全体的機能評定(Global Assessment of Functioning:GAF),学歴,希死念慮,精神病症状,精神科的併存疾患(パーソナリティ障害,神経発達障害,アルコールまたは物質乱用),身体的併存障害を独立変数の候補として使用した。

結果

本研究では,RC状態にある患者(254名,全体の9.7%)は非RC患者と比較して,女性が多く[オッズ比(OR)=1.51,信頼区間(CI):1.14-2.01,p=0.004],発症年齢が若く(OR=0.97,CI:0.95-0.98,p=9.2×10-8),GAFで機能障害が認められ(OR=2.90,CI:2.19-3.85,p=1.0×10-13),神経発達障害(OR=1.76,CI:1.13-2.73,p=0.013)や身体的併存障害(OR=1.73,CI:1.30-2.31,p=0.0002)を有する率が高かった。

一方で,OYE状態にあること(505名,全体の19.4%)は,女性であること(OR=0.65,CI:0.53-0.80,p=5.9×10-5),年齢が高いこと(OR=1.03,CI:1.02-1.04,p=5.6×10-13),職業的地位が高いこと(OR=1.79,CI:1.41-2.30,p=2.6×10-6),精神病症状(OR=0.18,CI:0.07-0.52,p=0.0002),パーソナリティ障害の併存(OR=0.29,CI:0.12-0.72,p=0.0075),アルコール・物質乱用の併存(OR=0.25,CI:0.12-0.52,p=0.0002)と有意な関連が認められた。

気分安定薬は全体で80%以上の症例で処方され,抗精神病薬はその約半数の症例で処方されており,RC患者では68.5%と比較的多く,OYE患者では38.6%と比較的少なかった。抗うつ薬の処方率は,OYE患者(33.1%)の方が,RC患者(40.9%)よりも低かった。

結論

RCとOYEは一般的に相反する特徴を示すが,臨床医は,これらの相反する臨床的特徴の背景や特性を理解することで,双極性障害の進行を予測できる可能性がある。

本研究の強みは,日本における双極性障害患者の状況を調査したものとしてはサンプル数が多いこと,評価者は日本精神神経学会の専門医及び精神保健指定医であるため,ICD-10に準拠した適切な診断・評価がなされたことである。

本研究の限界は,質問票に基づいた横断研究デザインであるため,RCやOYEと種々の臨床的特徴との因果関係については不明なことである。また,無回答バイアスや評価者間バイアスも考えられる。しかし,本研究に参加した評価者は熟練した臨床医であることから,評価の偏りは比較的少ないと思われる。

2021年04月 [no.2(248号)]

(大谷 洋平)

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