うつ病治療における電気痙攣療法の特異な影響

NEUROPSYCHOBIOLOGY, 79, 408-416, 2020 Differential Effects of Electroconvulsive Therapy in the Treatment of Major Depressive Disorder. Stippl, A., Kirkgöze, F. N., Bajbouj, M., et al.

電気痙攣療法(electroconvulsive therapy:ECT)はうつ病に対する急性期治療として最も有効な治療法の一つである。ECTの治療効果に関するメカニズムはいまだはっきりしないが,これを理解することは,重症うつ病の病態生理や効果的な治療の作用機序を明らかにすると共に,治療の個別化において重要となるかもしれない。

抗うつ効果に影響を与える因子あるいは効果を予測する因子

ECTに対する良好な治療反応に関連する臨床特性として,エピソードの短さあるいは抗うつ薬への非反応の少なさ,高齢,精神病症状が指摘されているが,双極性障害,性別,発症年齢,過去のエピソード数に関しては有効性との関連は認められていない。ECTは,重症な精神病性うつ病,精神運動抑制を伴う重症うつ病,希死念慮,持続的な拒食など早急な改善を要する場合には一次治療として考慮すべきであるとされている。

ECTの認知機能への影響として,特にエピソード記憶の障害が指摘されている。処理速度や全般的認知機能などは治療前よりもわずかに低下するが,作動記憶は影響を受けないという報告もある。これらの認知機能障害は主にECT終了後3日間に限定されており,ECT終了後2週間以内にはおおむね改善する。

ECTの臨床効果や認知機能への影響は,電極配置,パルス幅,刺激量などのECTの刺激パラメーターの影響を受けると考えられている。

ECTの急性期の有効性は非常に高いが,ECT終了後になんらかの維持治療が行われないと再燃の頻度は高く,6~12ヶ月以内に約50%の患者が再燃する。

ECT後の脳構造と機能の変化

ECT後に海馬や扁桃体の体積が増加することが報告されている。ECTセッションの回数と電極配置が海馬体積の増大の程度,左右差と関連していたが,臨床効果との関連は認められなかった。また,治療前の膝下部帯状皮質や扁桃体の体積と治療効果との関連が認められたという報告もある。安静時機能的結合性と治療反応を調べた研究では,治療前の背内側前頭前野と前帯状皮質の安静時ネットワークが個別の患者に対する治療効果を予測したと報告されている。ECTは感情ネットワークに重要な前帯状皮質と扁桃体の血流,糖代謝を低下させたと報告されている。また,治療早期の辺縁系内の機能的結合性の低下は治療後半の辺縁系‐前頭前野の機能的結合性の上昇を予測し,それがECTの治療反応を予測するという報告もある。

ECT後の神経伝達の変化

うつ病の病態生理にグルタミン酸が関与していることが指摘されている。ECTは背外側前頭前皮質,前帯状皮質,海馬のグルタミン酸系の濃度を上昇させるという報告があるものの,結果は一貫していない。これは,Glx(グルタミン酸とグルタミンの合計)値を用いず,グルタミン酸濃度とグルタミン濃度を区別して検討している研究が含まれていることが原因かもしれない。

その他,γ-アミノ酪酸(GABA),ドパミン,セロトニンなどの神経伝達に対する影響も報告されているが,今後は複数の神経伝達系を同時に計測する縦断研究が必要である。

ECTの炎症プロセスへの影響

炎症性サイトカイン[インターロイキン(IL)-6,腫瘍壊死因子(TNF)-αなど]はうつ病の一部で上昇していることが指摘されている。老年期のうつ病では,治療前の炎症反応の低さとECTの良好な治療反応との関連が指摘されているが,同様の関連があらゆる年代のうつ病で認められるかどうかはわからない。

炎症プロセスはグルタミン酸とも関連しているため,炎症性サイトカインと脳の複数の部位におけるグルタミン酸濃度,ECTの治療反応の関連を調べることが必要かもしれない。

まとめと今後の展望

ECTの抗うつ効果の理解のためには,マルチモーダルな方法を用いて,神経活動や神経結合,神経化学,炎症のマーカーを同時に,また複数回にわたって検討することが必要である。このような研究は,抗うつ効果や治療反応予測の解明のみならず,うつ病の病態生理と有効な治療のメカニズムの理解に繋がるかもしれない。 

2021年04月 [no.2(248号)]

(髙宮 彰紘)

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