小児期の心的外傷と超ハイリスクの若年者における精神病への移行の関連に対して,脳皮質構造は媒介因子として働くか?

SCHIZOPHR RES, 224, 116-125, 2020 Does Cortical Brain Morphology Act as a Mediator Between Childhood Trauma and Transition to Psychosis in Young Individuals at Ultra-High Risk? Rapado-Castro, M., Whittle, S., Pantelis, C., et al.

背景

この20年間で超ハイリスク(Ultra High Risk:UHR)の概念が用いられるようになり,①微弱な陽性症状,②短期間の間欠的な精神病症状,③精神病になりやすい家族歴や統合失調症型パーソナリティ障害の診断のいずれかを持ち,かつ過去1年以内の社会機能低下を示す者を指す。UHRの精神病への移行は小児期における心的外傷の影響を強く受けることが知られている。

また,それ以外にも小児期の心的外傷は様々な精神症状の増悪と関連していることが知られている。その中でも性的虐待の影響は特に著しい。小児期の心的外傷と精神病の発症について調べた報告は少ないが,小児期のストレスが脳の発達に少なからず影響を与えることを考慮すると,小児期の心的外傷が精神病の発症にも繋がり得ると考えられる。近年,小児期の心的外傷が脳の発達に構造学的に大きな影響を及ぼすことが示唆されてきているが,それらがUHRの精神病の発症にどれだけ寄与しているかを調べた報告はまだない。

そこで本研究では,PACE 400研究のデータ(UHRの長期経過を追ったコホート)を用いることで小児期の心的外傷と脳の構造学的な変化との関連について検討し,また脳構造の変化がその後の精神病の発症に寄与するかどうかを検討した。具体的な手順としては,まず,UHRコホートの被験者を心的外傷が軽度であった群と重度であった群に分類してそれぞれの群における脳の形態学的な変化を明らかにし,次に,精神病の発症群(UHR-T)と非発症群(UHR-NT)における脳の形態学的な変化の違いについて検討を行った。

方法

本研究の被験者はPACE(Personal Assessment and Clinical Evaluation)クリニックで1993~2006年の間に募集した416名のUHRとした。組み入れ基準としては,15~30歳で,UHR基準①~③のいずれかを満たしていることとした。すなわち,①過去12ヶ月以内に認められた微弱な陽性症状,②過去12ヶ月以内に認められた7日以内の短期間の精神病症状,③統合失調症型パーソナリティ障害もしくは第1度親族の精神病の家族歴を満たしかつ過去1年以内の社会機能の低下または慢性的な社会機能障害を認めること,である。

核磁気共鳴画像法(MRI)の撮像,精神症状及び社会機能,認知機能評価,小児期の心的外傷の評価を行ったところ,組み入れ基準を満たした被験者の数は62名であった。

結果

UHR-T群ではUHR-NT群と比較して,基準時点において社会機能が有意に低く,未治療期間が有意に長かったが,それ以外に明らかな違いは認められなかった。小児期の性的虐待が重度であった群は性的虐待が軽度であった群と比べて,両側側頭葉(左:p=0.03,右:p=0.04)と右前頭前野(p=0.01)の有意な皮質厚の減少及び右帯状回尾側前部の皮質面積の増加(p=0.04)が認められた。一方で重度の身体的な虐待を受けていた群では,右前頭前野の有意な皮質厚の増加が認められた(p=0.03)。またUHR-T群ではUHR-NT群と比較して有意な右側頭回の皮質厚の減少(p=0.05)と右帯状回の皮質面積の増加(p=0.04)が認められた。UHR-T群と被性的虐待での共通した脳の構造学的変化として右側頭葉の皮質厚の減少が認められた。

以上のことから,被性的虐待が精神病への移行に関連することに際して,脳構造の変化がどの程度影響しているかを,右側頭葉の皮質厚の減少を媒介にした媒介解析を行ったところ,有意に右側頭回の皮質厚の減少を介していることがわかった(図)。

考察

本研究はUHRのコホートにおいて小児期の心的外傷と脳構造,精神病への移行の関係について検討を行った初めての報告である。本研究は,小児期の性的虐待が右側頭回の皮質の発達に悪影響を与え,それが精神病への移行のリスクになり得ることを示した。

2021年04月 [no.2(248号)]

図.媒介因子としての皮質厚

(和田 真孝)

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