統合失調症患者の脳梁におけるスフィンゴシン−1−リン酸の代謝変化を示すエビデンス

SCHIZOPHR BULL, 46, 1172-1181, 2020 Evidence for Altered Metabolism of Sphingosine-1-Phosphate in the Corpus Callosum of Patients with Schizophrenia. Esaki, K., Balan, S., Iwayama, Y., et al.

背景

スフィンゴ脂質は細胞膜の主要な構成要素で,脳の発達と正常な機能に欠かせない。先行研究では,このうちスフィンゴミエリンとセラミドの量が,統合失調症患者の死後脳と皮膚検体でそれぞれ減少していることが報告された。しかし,統合失調症におけるスフィンゴ脂質の役割は十分に検証されていない。

本研究では,統合失調症患者及び年齢・性別を一致させた対照群の死後脳を用い,脳梁とBrodmann 8野(BA8)のスフィンゴ脂質の量や,スフィンゴ脂質の代謝に関わる遺伝子の発現を系統的に解析した。対照群と比べた変化が統合失調症に特異的なものなのかどうかを検証するため,うつ病及び双極性障害患者の死後脳も調べた。また,スフィンゴ脂質に対する抗精神病薬の影響に関しては,マウスで検証した。

方法

脳バンクから脳梁及びBA8の死後脳検体を取り寄せ,診療録の情報を元にDSM-IVとDiagnostic Instrument for Brain Studiesを用いて精神科診断を下した。スフィンゴ脂質の解析には,統合失調症患者,うつ病患者,双極性障害患者,精神科診断を有さない対照群(各群15名)の凍結組織標本を用いた。死亡時の年齢,性別,剖検までの時間は4群で一致させた。遺伝子発現解析には,統合失調症患者91名と対照群90名の脳梁及びBA8の検体を用いた。

マウスを用いた実験では,ハロペリドール,リスペリドン,リン酸緩衝生理食塩水のいずれかを4週間腹腔内に投与した後(各群10個体),脳切片を調べた。スフィンゴ脂質の解析にはLC-ESI-MS/MS法を用い,遺伝子発現解析にはリアルタイムPCR法またはデジタルPCR法を用いた。

結果

統合失調症患者の脳梁において,スフィンゴ脂質の長鎖塩基の一種であるスフィンゴシン-1-リン酸(S1P)の量が対照群と比べて有意に減少していた(31%の減少,p=0.009)(図)。一方,その他の長鎖塩基やアセチル化されたスフィンゴ脂質の量は,脳梁において2群間で有意差はなかった。うつ病患者と双極性障害患者では,脳梁及びBA8におけるS1Pの量に関して対照群と有意差を認めず,同所見は疾患特異的であった。

統合失調症患者において,抗精神病薬の用量とS1Pの量との間に有意な関連は認められず,マウスの実験でもS1Pの量に対する抗精神病薬の効果が認められなかったため,抗精神病薬の影響は否定的と解釈された。統合失調症患者の脳梁では,対照群と比べてS1P分解酵素であるS1Pリアーゼの遺伝子発現が有意に上昇していた(p=0.006)。

結論

統合失調症患者の脳梁においてS1Pの量は有意に減少しており,これはS1Pの分解過程の亢進に起因する可能性がある。S1Pの減少は,神経炎症や白質の減少,血液脳関門の障害,オートファジーの調節障害と関連することから,本知見は統合失調症における白質病変の病態を説明する可能性があり,S1P受容体を標的とした新規治療法の開発が期待される。

2021年04月 [no.2(248号)]

図.ヒトの死後脳の脳梁におけるスフィンゴイド塩基の量

(水野 裕也)

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