抗精神病薬未服薬の統合失調症もしくは精神病患者における認知機能とグルタミン酸代謝物及びγアミノ酪酸濃度との関係

BIOL PSYCHIATRY, 89, 278-287, 2021 Associations Between Cognitive Function and Levels of Glutamatergic Metabolites and Gamma-Aminobutyric Acid in Antipsychotic-Naïve Patients With Schizophrenia or Psychosis. Bojesen, K. B., Broberg, B. V., Fagerlund, B., et al.

背景

初回エピソードの統合失調症や精神病においてグルタミン酸及びγアミノ酪酸(GABA)の神経伝達系での異常を示唆する研究報告が集積されつつある。興味深いことに,これらの異常を元に認知機能障害も生じているとする根拠も存在する。主に服薬治療中の患者を対象とした先行研究は,前頭前野のグルタミン酸系代謝物及びGABAの濃度と,作動記憶,遂行機能,注意力,理解力との関連について報告している。更に,重要なことに,グルタミン酸系伝達物質と認知機能の関連は治療によって変化するようである。しかし,これまでに未服薬もしくは最低限の服薬治療しか受けていない患者を含んだ研究は4報しかなく,結果は一貫していない。

そこで著者らは,まず生涯未服薬の患者において背側前帯状皮質(dACC)のグルタミン酸系代謝物とGABAの濃度が低いかどうか,左側視床のグルタミン酸系代謝物の濃度が高いかどうかを調べた。次に,dACCのグルタミン酸+グルタミン(Glx)とGABAの濃度と認知機能との関連について,患者と健常者の違いを調べた。

方法

抗精神病薬を未服薬の統合失調症もしくは精神病の患者56名と,年齢,性別,両親の社会経済的状況をマッチさせた健常者51名が本研究に参加した。患者群の組み入れ条件は,ICD-10の統合失調症,統合失調感情障害,非器質性精神病の診断を満たすこと,年齢が18~45歳であること,抗精神病薬治療や中枢神経刺激を受けていないこと,とした。

認知機能は空間作動記憶(spatial working memory:SWM),視覚性注意力(rapid visual information processing:RVP A’),病前IQ (Danish Adult Reading Test :DART)によって評価した。核磁気共鳴撮像は認知機能検査から7日以内に行った。

性別,年齢,喫煙状況を共変量とした多変量線形回帰によって,患者群と健常者群におけるdACC及び左側視床のグルタミン酸及びGABA濃度の違いを比較した。また,dACCのGlx,GABAの濃度とDART,RVP A’,SWMの評点との関連について,多変量線形回帰モデルによって評価した。

結果

dACCのGABA濃度は,患者群において健常者群と比べて有意に低かった(F1,83=4.79,p=0.03)。また,共変量を調整した場合,左側視床のグルタミン酸濃度は,診断を統合失調症に限定した患者群において健常者群と比べて高かった(p=0.01)。

両群において,dACCのGlx濃度と空間作動記憶(SWM評点)との間に負の関連が認められた(表)。dACCのGlx濃度と注意力(RVP A’評点)との関連は多重検定補正によって有意ではなくなり,病前IQ(DART評点)との間には関連は認められなかった。また,dACCのGABA濃度,及び左側視床Glx濃度と認知機能の間に関連は認められなかった。

結論

本研究では,抗精神病薬未服薬の統合失調症患者と健常者の両群においてdACCのGlx濃度と空間作動記憶との関連,また傾向レベルではあるが注意力との関連が認められたことから,dACCのGlx濃度は認知機能の向上との関連が示唆される。また,統合失調症患者群においては健常者群と比べて,dACCのGABA濃度が低く,左側視床のグルタミン酸濃度が高かった。これらはそれぞれ精神病,統合失調症の病態生理に関与している可能性がある。 

2021年04月 [no.2(248号)]

表.診断と背側前帯状皮質のGlx及びGABA濃度が認知機能に及ぼす効果

(上野 文彦)

このウィンドウを閉じる際には、ブラウザの「閉じる」ボタンを押してください。