【from Japan】
脳の結合性によって明らかにされた統合失調症と自閉症の重なりつつも非対称な関係性

Schizophrenia Bulletin, 46, 1210-1218, 2020 Overlapping but Asymmetrical Relationships Between Schizophrenia and Autism Revealed by Brain Connectivity. Yujiro Yoshihara, Giuseppe Lisi, Noriaki Yahata, Junya Fujino, Yukiko Matsumoto, Jun Miyata, Gen-ichi Sugihara, Shin-ichi Urayama, Manabu Kubota, Masahiro Yamashita, Ryuichiro Hashimoto, Naho Ichikawa, Weipke Cahn, Neeltje E. M. van Haren, Susumu Mori, Yasumasa Okamoto, Kiyoto Kasai, Nobumasa Kato, Hiroshi Imamizu, René S. Kahn, Akira Sawa, Mitsuo Kawato, Toshiya Murai, Jun Morimoto, Hidehiko Takahashi

高橋 英彦

東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科精神行動医科学

高橋 英彦氏 写真

背景

統合失調症スペクトラム障害(Schizophrenia Spectrum Disorder:SSD)と自閉スペクトラム症(Autism Spectrum Disorder:ASD)という二つの精神疾患の関係性は,この半世紀の間,議論されてきた。精神疾患の関係性が明確でない根本的な理由は,精神疾患の生物学的な指標がなく,診断が患者の行動から規定されるためである。

本研究では,SSDとASDの関係性を明らかにするために,人工知能技術を用いて,生物学データに基づくSSDの判別法の開発を目指した。更に,以前に開発したASDの判別法も利用することにより,一個人でSSD,ASDの診断の確実性であるSSD度,ASD度を算出することも目指した。このことにより,SSD度とASD度の二次元の座標として,個々の診断の確実性を表示し,同時に集団としてのSSD群,ASD群の関係性を評価することが可能となる。

方法

成人の研究参加者として,日本人データ 170名(SSD患者68名・健常者102名)の安静時の核磁気共鳴画像法(MRI)上の脳機能的結合(9,730個)から,人工知能技術を適用することで,SSDの診断に関わる16個の機能的結合性を特定した。16個の機能的結合性の重み付き和でSSD度を定量化し,SSDもしくは健常者いずれかの判別法とした。本判別法が独立データにも汎化可能かどうかを確認するため,海外3施設のデータを入手し,適用した。

結果

判別率の精度を示す受信者動作特性(ROC)曲線の曲線下面積(AUC)は,本研究で開発されたSSD判別法を慢性期のSSDを含む国内データに適用した場合,0.83と高い判別率を示し,米国の慢性期のSSDデータに対してはAUCが0.75,オランダの慢性期のSSDデータに対してはAUCが0.66の判別の精度が得られた。一方,米国の初回エピソードのSSD患者データに対してはAUCが0.42の低い判別率を示した。

SSD判別法により定量化された個々のSSD度を横軸として,また,以前に著者らの研究グループが開発したASD判別法により定量化されたASD度を縦軸として,二次元の座標上に,SSD,ASD,健常者をプロットした。SSD-ASDの座標面では,SSD群の中心がASD軸上で健常者群の中心よりもASD度が高くなり,SSD群とASD群が重なり合う要因となっていた。一方でASD群の中心はSSD軸上で健常者群の中心と差はなかった。また,ASD群の中で,SSD度が高いほどASD度が高くなる傾向が認められたが,SSD群の中ではSSD度とASD度の関係性は認められなかった。このようにSSD群とASD群は,重なり合う関係性と,非対称な関係性の両方の特性があることが,SSD-ASD座標上で確認された。

考察

著者らは安静時の脳の機能的結合性と,高度な機械学習アルゴリズムを用いて生物学的なSSDの判別法を開発した。SSD判別法は,MRI機種や国籍を越えて海外データにも汎化された。更に,このSSD判別法と以前に開発したASD判別法を応用し,SSDとASDの診断の確実性という二つの生物学的な次元の座標に視覚化することで,二つの疾患の関係性を世界に先駆け明らかにした。両者には重複する部分も多いが,SSDにはASD傾向があるのに対して,ASDにはSSDの傾向がないことがわかった。今後は,他の精神疾患についてもそれぞれの判別法が開発されることにより,様々な精神疾患の関係性を広く検討することが可能となる。

2020年10月 [no.5(245号)]

(高橋 英彦)

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