スタチン使用と自殺,うつ病,不安症,痙攣発作との関連:スウェーデンの全人口コホート研究

LANCET PSYCHIATRY, 7, 982-990, 2020 Associations Between Statin Use and Suicidality, Depression, Anxiety, and Seizures: A Swedish Total-Population Cohort Study. Molero,Y., Cipriani, A., Larsson, H., et al.

背景と目的

スタチンは,その抗血栓・抗炎症・抗酸化作用が広く検討され,心血管系イベントの一次・二次予防に推奨されている一方,潜在的な精神神経学的副作用の懸念がある。先行研究では,不安症,うつ病,自殺リスク,痙攣発作との間に予防的な関連と有害な関連の両方が示されており,本研究ではスタチン使用者の大規模コホートにより,これら四つの転帰を評価することを目的とした。

方法

スウェーデンの全国登録を用いて,2006年1月1日から2013年12月31日までの間にスタチンを処方された15歳以上の登録者全員を対象とした。

精神神経学的転帰を自傷行為または自殺企図または自殺による死亡(ICD10:X60~X84),うつ病(F32~F34,F38~F39),不安症(F40~F45,F48),痙攣発作(G40~G41,R56)による予約外(緊急)受診及び専門外来受診とし,スタチン処方との関連を調べた。

全ての期間を治療期間と非治療期間に分割し,層別Cox比例ハザード回帰分析を用いた被験者内デザインを適用し,各被験者内で薬物使用期間と使用していない期間における転帰の発生率を比較した。また,非特異的治療効果については,同一コホート内のサイアザイド系利尿薬と抗ヒスタミン薬使用を検討した。

結果

スタチン使用者は1,149,384名で,そのうち625,616名(54.4%)が男性,1,015,949名(88.4%)が調査開始時に50歳以上であった。調査期間中,自殺転帰(自殺企図,自殺による死亡)は6,372名(0.6%),うつ病は23,745名(2.1%),不安症は30,100名(2.6%),痙攣発作は28,844名(2.5%)に認められた。

スタチン使用はうつ病の発症率低下と関連しており[ハザード比(HR 0.91)](図),抗うつ薬使用の交絡効果を補正してもほぼ同様の関連が見られた。サイアザイド系利尿薬でのHRは0.61(14,718名),抗ヒスタミン薬使用では0.84(23,715名)であり,統計学的有意差は見られなかった。自傷行動または自殺行動(HR 0.99),不安症(HR 0.99),痙攣発作(HR 1.00)との関連には統計学的な有意差は認められなかった(図)。

考察

本研究のコホートはスウェーデン人口の同年齢層の約13%に相当する。被験者内デザインでは,スタチン使用と自殺転帰,不安症,痙攣発作との間に明確な関連は認められなかったが,スタチン使用期間はうつ病リスクの低下と関連し,これは抗うつ薬の同時使用を補正した後も認められた。

先行研究では,本研究と比して大幅なうつ病リスクの低下を示唆する報告や,また逆に関連がないとの報告があるが,これらの研究では転帰の指標やうつ病の指標,デザインなどが異なっていることや,被験者間モデルを用いているため調整できる交絡因子が限られたことから,今回の結果との相違が生じたと考える。

サイアザイド系利尿薬,抗ヒスタミン薬使用をネガティブコントロールとするとうつ病リスクの低下が認められたが,有意差がなかったのはサンプルサイズが主要解析より小さかったためと考えられる。この二つの薬剤で結果が一貫していたことから,直接的な神経保護メカニズムではなく,非特異的な治療因子によってうつ病が減少した可能性が考えられる。単回または不定期のスタチン処方ではスタチン使用とうつ病との間に関連が認められなかったことは,この解釈と一致する。

本研究の限界は,観察研究であり因果関係の推測には注意が必要な点,治療中に変化し得る交絡因子は考慮していない点,服薬アドヒアランスが不明な点,転帰を予約外受診に限った点などである。今後は心血管系イベントの有無,精神症状の重症度,スタチンクラスの違いなどを考慮した更なる研究が期待される。

2021年02月 [no.1(247号)]

図.被験者内分析による精神神経経済学転帰とスタチン使用期間との関連

(高橋 希衣)

このウィンドウを閉じる際には、ブラウザの「閉じる」ボタンを押してください。