境界知能を有する成人における孤独感と一般的な精神障害との関連

J AFFECT DISORD, 277, 954-961, 2020 The Association Between Loneliness and Common Mental Disorders in Adults With Borderline Intellectual Impairment. Papagavriel, K., Jones, R., Sheehan, R., et al.

背景

境界知能を有する人は,精神病,うつ病,不安症,パーソナリティ障害,物質使用障害などの精神疾患の有病率が一般人口に比べて高いことが示されている。孤独感は,「人の社会的ネットワークの質と量が不足している時に発生する主観的で不快な経験」と定義されるが,精神保健転帰との関係では,うつ病の重要な危険因子であり,全般性不安症,希死念慮と自殺企図の両方と関連している。しかしながら,境界知能の人々における孤独感の有病率とその影響については,データが不足している。

方法

2014年にイングランドで行われた全国成人精神医学罹患率調査(Adult Psychiatric Morbidity Survey:APMS)のデータを用いた。知的機能は,National Adult Reading Test(NART)を用いて測定し,IQが80未満の場合を境界知能とした。孤独感は,8項目版社会機能質問票(eight-item Social Functioning Questionnaire)の1項目「孤独,及び人から孤立していると感じる」の4段階の回答を用いて測定した。境界知能の人々と一般の人々における孤独感の有病率と,孤独感と社会人口統計学的変数及び臨床的変数との関連を,重みづけ調整回帰分析を用いて解析した。

結果

6,877名のデータを解析し,全体の10.2%(671名)が境界知能を有すると判定された。境界知能の人々は一般の人々よりも,無職,独身,低収入,男性,若年,高齢(75歳以上),安全でないと感じていること,差別,社会的支援の低さなどの社会的不利益にさらされていることが多いという差が見られた。

境界知能の人々における孤独感の有病率は24.2%であったのに対し,一般の人々では18.4%であり,オッズ比は1.41であった[95%信頼区間(CI):1.13-1.76]。孤独感と,独身,無職,低収入,社会的支援の低さ,安全でないと感じていること,過去1年間の差別との間には,両群で関連が見られた。

孤独感は,両群ともウェルビーイングの低下,慢性身体障害のリスクと関連していた(表)。孤独感を有する場合では,そうでない場合と比べて,うつ病,なんらかの恐怖症,全般性不安症,広場恐怖,直近1週間の希死念慮のリスクが高かった。知的機能は,孤独感と所得(OR:1.82,95%CI:1.06-3.11)及び直近1週間の自殺念慮(OR:0.13,95%CI:0.02-0.93)との関連を緩和した。

考察と結論

孤独感は,境界知能の人々に多く見られることが示された。特に社会的不利益にさらされていることが,孤独と関連していた。一般の人々と比べて,孤独は希死念慮との関連が強いことが示された。

本研究の限界として,英語話者のみに有効なNARTを用いてIQを測定していること,孤独感の測定に1項目しか用いていないこと,横断研究であるため因果関係を示すことができないこと,などが挙げられるが,社会的不利益(低所得など)を対象とした介入は,境界知能の人々における孤独感や精神衛生上の問題に対する脆弱性を減らすことに繋がる可能性が示唆された。

2021年02月 [no.1(247号)]

表.境界知能の人々と一般の人々における孤独感と精神的・身体的健康の転帰との関連

(黒川 駿哉)

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