妊娠中の母親のインフルエンザA(H1N1)予防接種と子の自閉スペクトラム症のリスク:コホート研究

ANN INTERN MED, 173, 597-604, 2020 Maternal Influenza A(H1N1) Immunization during Pregnancy and Risk for Autism Spectrum Disorder in Offspring: A Cohort Study. Ludvigsson, J. F., Winell, H., Sandin, S., et al.

背景

妊娠はインフルエンザ重症化の危険因子で,妊娠中に新型インフルエンザに罹患すると死産及び早産のリスクが高まるおそれがある。妊娠中のインフルエンザワクチン接種は母体と子の健康に保護的に働くとされているが,米国の研究では妊娠中に季節性または新型インフルエンザワクチン接種を受けた母親の子において自閉スペクトラム症(ASD)のリスクが上昇する可能性が報告されている(Zerboら,2017)。しかしH1N1ワクチンに関しては,胎児の器官発達に重要な妊娠第一期の接種によって生じる,子の長期的なリスクについて詳細に検討されていない。

そこで本研究では,スウェーデンの国民登録簿を用いて,2009年の新型インフルエンザの流行時に妊娠中でインフルエンザA(H1N1)pdm09ワクチン接種を受けた母親から生まれた子におけるASDの発症リスクを評価した。

方法

スウェーデンの七つのヘルスケア地域において2009年10月1日~2010年9月30日に生まれた69,019名の子と69,002名の母親を対象に,ワクチン接種データや臨床情報を登録簿から抽出し,2016年12月31日まで追跡調査した。主要転帰はASD(ICD-10コード:F84.0,F84.1,F84.5,F84.8,F84.9),副次転帰は自閉症(ICD-10コード:F84.0)とした。

Cox比例ハザード回帰モデルを用いて,妊娠中にH1N1ワクチンを接種した母親と接種していない母親の子のASD及び自閉症の発症リスクを,ハザード比(HR)で推定した。なお,潜在的な交絡因子として,母親の出産時の年齢,体格指数(BMI),喫煙,出産歴,出生国,可処分所得,併存疾患,乳児の性別,医療地域,出生前の調査期間を調整した。

結果

追跡期間(平均6.7年)中にASDの診断を受けた子は,ワクチン曝露児では394/39,726名(1.0%)に対し,非曝露児では330/29,293名(1.1%)であった。

潜在的交絡因子を調整すると,妊娠中のH1N1ワクチン接種には,子のASD診断[調整HR=0.95,95%信頼区間(CI):0.81-1.12]や自閉症診断[調整HR=0.96,95%CI:0.80-1.16]との関連が認められなかった。また,非曝露児と曝露児の6年間の標準化累積罹患率の差は,ASDでは0.04%(95%CI:-0.09%-0.17%),自閉症では0.02%(95%CI:-0.09%-0.14%)であった。

解析を妊娠第一期(最初の14週)のワクチン曝露に限定しても,ASDのリスク推定値(調整HR=0.92,95%CI:0.74-1.16)及び自閉症のリスク推定値(調整HR=0.91,95%CI:0.70-1.18)に影響はなかった。

感度分析として母親のてんかん,神経疾患,あるいは精神疾患の併存をモデルに追加しても,リスク推定値に変化はなかった[ASD:調整HR=0.95(95%CI:0.81-1.12),自閉症:調整HR=0.96(95%CI:0.80-1.16)]。

結論

この大規模コホート研究では,妊娠中の母親のH1N1ワクチン接種と子のASDのリスクとの間に関連は認められなかった。ただし,本研究の限界として,①妊娠中の母親のH1N1インフルエンザ感染に関するデータがないこと,②母親の健康意識の高さなど,ワクチン接種とASDのリスク低下の両方に関連する交絡因子が残存している可能性,③父親の遺伝的影響の交絡の可能性,④季節性インフルエンザや,H1N1以外のワクチン接種のデータは入手できなかったこと,⑤今回の結果はH1N1ワクチンに特異的なもので,他のインフルエンザワクチンには適用できない可能性,が挙げられる。 

2021年02月 [no.1(247号)]

(谷 英明)

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