非戦争関連の心的外傷後ストレス障害に対する,右背外側前頭前野皮質への1Hz及び10Hzの反復経頭蓋磁気刺激(rTMS)の効果を検討したシャム刺激対照無作為化対照試験

CAN J PSYCHIATRY, 65, 770-778, 2020 A Randomized Sham-controlled Trial of 1-Hz and 10-Hz Repetitive Transcranial Magnetic Stimulation (rTMS) of the Right Dorsolateral Prefrontal Cortex in Civilian Post-traumatic Stress Disorder. Leong, K., Chan, P., Ong, L., et al.

背景

心的外傷後ストレス障害(PTSD)は心的外傷後の3人に1人が罹患すると言われている。他の精神疾患や自殺にも繋がり得ることから社会的負担の非常に大きい疾患の一つとされている。軍人におけるPTSDの罹患率は15%と言われている一方で,一般市民でも生涯有病率が米国で7.5%,カナダで9.2%にも上るとされている。精神療法や薬物療法の効果も認められている一方で,治療抵抗群に対する新規治療法の需要は大きく,反復経頭蓋磁気刺激(rTMS)療法をはじめとした非侵襲的神経修飾療法が注目を集めている。

PTSDの診断は1980年の導入以来進化を続け,PTSDの原因として様々な心的外傷を反映しており,たとえば,恐怖体験や直接の心的外傷が必ずしもPTSDの診断に必須ではないなどとしている。この診断は,PTSDが規範を逸脱した体験に曝露されたことによって生じたというよりは,神経回路の障害であるいう意見を支持している。

rTMS療法は非侵襲的神経修飾介入法の一つで,神経回路異常のある精神疾患に対して効果が認められている。PTSDでは背外側前頭前野(DLPFC)を標的にした複数の研究で効果が認められているが,その治療パラメーターは不明確である。rTMS療法では様々な周波数での磁気刺激を行うが,その刺激内容によって皮質への影響は異なるとされており,PTSDに対する治療パラメーターのコンセンサスは得られてない。そこで本研究においてはPTSD患者に対して右DLPFCに対する高頻度及び低頻度rTMS療法の効果を検討するため,二重盲検シャム刺激対照無作為化対照試験を実施した。

方法

本研究では被験者を低頻度rTMS療法,高頻度rTMS療法,低頻度シャム刺激,高頻度シャム刺激に,それぞれ2:2:1:1で無作為に割り付け,それぞれ2週間の治療介入(10セッション)を行った。

被験者は19~70歳の非戦争関連PTSD患者であり,rTMS治療4週間前からrTMS治療終了まで同一の向精神薬にて薬物治療が行われている。脳梗塞をはじめとする神経疾患の既往がある者,てんかんをはじめとするrTMS療法に伴う危険性のある者は除外されている。

介入内容としては安静時運動閾値(RMT)を目視で計測し,刺激強度は120%RMTとした。低頻度rTMS療法では1Hzの刺激を37.5分間,合計2,250パルスの刺激を行い,高頻度rTMS療法では10Hzの4秒間の刺激と26秒間の非刺激の間隔で37.5分間,合計3,000パルスの刺激を行った。シャム刺激では実刺激と音声・体性感覚から判別のつかない刺激介入を行った。

主要評価項目は半構造化面接によるPTSD臨床診断面接(Clinician Administered PTSD Scale-Ⅳ:CAPS-Ⅳ)を用いて評価したPTSD重症度の変化とし,治療前後及び3ヶ月後に実施した。

結果

31名のPTSD患者を組み入れ,2名を除きうつ病の併存が認められた。各群で人口統計学的データに有意な差は認められなかった。低頻度rTMS療法を施行したうちの1名は入院を要する自殺念慮が認められ本研究から脱落したが,入院は短期間であった。それ以外の重篤な有害事象は認められなかった。

主要評価項目については,シャム刺激と比較して低頻度rTMS療法で治療後に有意な改善効果が認められた(p=0.021)が,高頻度rTMS療法では認められなかった(p=0.65)。

考察

本研究はPTSDに対する低頻度rTMS療法,高頻度rTMS療法の効果及び安全性を検討した二重盲検シャム刺激対照無作為化対照試験であるが,低頻度rTMS療法において有意な改善が認められた。有害事象は1名に認められているが,rTMS療法に関連するものかどうかは不明であった。

今後はより大きな症例数を対象とした研究が求められる。

2021年02月 [no.1(247号)]

(和田 真孝)

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