うつ病予防のための修飾可能因子を特定する曝露ワイド・メンデル無作為化アプローチ

AM J PSYCHIATRY, 177, 944-954, 2020 An Exposure-Wide and Mendelian Randomization Approach to Identifying Modifiable Factors for the Prevention of Depression. Choi, K. W., Stein, M. B., Nishimi, K. M., et al.

背景

うつ病予防のための修飾因子の多くは,その妥当性の検証がなされておらず,更にはそうした因子とうつ病との因果関係も明確になっていないことが多い。本研究では,10万人以上の英国バイオバンク参加者データを用いて,うつ病発症に関する潜在的な修飾因子を体系的にスクリーニングし,それらとうつ病発症との潜在的な因果関係を検証することを目的とした。

方法

英国バイオバンクに登録され,高品質のゲノムデータを有し,オンラインでの約6~8年の精神保健調査を完遂した英国系白人の成人123,794名を初期サンプルとして用いた。そのうち,基準時点において,抑うつ気分やアンヘドニアが過去2週間の半分以上の日数にわたって認められた者は除外した。追跡期間において,うつ病症状はPatient Health Questionnaire-9(PHQ-9)を用いて評価し,本研究ではPHQ-9評点が10点以上になった場合に,うつ病発症ありと定義した。また,修飾因子として,生活習慣(例:運動,睡眠,メディア使用,食事),社会的変数(例:活動,支援),環境変数(例:緑地,汚染)を含む106項目を抽出した。参加者特性(年齢,性別など),社会人口統計学的特性(収入,雇用状態など),身体的健康因子(BMIや身体疾患など)などは共変量として扱った。また,これまでの心的外傷経験(例:幼少期の虐待,パートナーからの虐待など)の情報も収集した。

更に,うつ病の大規模ゲノムワイド関連解析結果(431,394名が組み込まれた研究)を用いて多遺伝子リスクスコア(PRS)を算出した。

ロジスティック回帰を用いた曝露ワイド関連アプローチにより,前述の共変量を調整して,それぞれの基準時点の修飾因子とうつ病発症との関連を検証した。最終的には,PRSに基づくうつ病のハイリスク群(112,258名),心的外傷体験に基づくうつ病のハイリスク群(112,258名),そして,こうしたリスクによる選別を受けない全対象者(112,589名)の3群での解析を行った。

そして,双方向性の2標本メンデル無作為化解析を用いて,曝露ワイド関連アプローチで特定された修飾因子とうつ病発症の因果関係について検証した。

結果

全対象者においては,共変量調整後には29の修飾因子がうつ病発症と有意な関連を示し,うち18因子はうつ病発症のオッズ比(OR)の低下に,11因子は上昇に関連した。そのうちの上位10の因子の内訳は(有意性の観点から),うつ病発症のOR低下に関連した因子が,他者に秘密を打ち明ける頻度,睡眠時間,水泳やサイクリングのような運動,歩行速度,スポーツクラブまたはジムの会員,穀物摂取であり,うつ病発症のOR上昇に関連した因子が,日中の居眠り,コンピューター使用時間,テレビ視聴時間,携帯電話の使用時間であった。

PRS及び心的外傷体験に基づくうつ病のハイリスク群に限定した場合でも,全対象者の解析で特定された因子のいくつかが有意な関連を示し,うつ病と有意な関連を示した因子は,PRSに基づくうつ病のハイリスク群では他者に秘密を打ち明ける頻度,睡眠時間,コンピューター使用時間,塩分摂取であり,心的外傷体験に基づくうつ病のハイリスク群では他者に秘密を打ち明ける頻度,水泳やサイクリングのような運動,睡眠時間,テレビ視聴時間であった。

メンデル無作為化による解析結果では,他者に秘密を打ち明けること[OR 0.76,95%信頼区間(CI):0.67-0.86],テレビ視聴時間(OR 1.09,95%CI:1.05-1.13),日中の居眠り(OR 1.34,95%CI:1.17-1.53)がうつ病発症に有意な影響を示した(日中の居眠りについては,逆の因果関係も認められた。つまり,うつ病が日中の居眠りに影響を与えた)。

結論

本研究では,社会的支援因子,メディア使用,24時間周期の習慣といった因子がうつ病発症に有意な影響を与えており,予防のための標的となる可能性が示された。今後,因果推論のための遺伝的情報と組み合わせた大規模な体系的なアプローチが,精神医学におけるマルチモーダルな予防のための候補因子を選定する上で役立つ可能性がある。

2021年02月 [no.1(247号)]

(吉田 和生)

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