小児期の脅迫,敵意,暴力とその後の精神病性障害:全住民ベースの症例対照研究

BR J PSYCHIATRY, 217, 575-582, 2020 Threat, Hostility and Violence in Childhood and Later Psychotic Disorder: Population-Based Case–Control Study. Morgan, C., Gayer-Anderson, C., Beards, S., et al.

背景と目的

小児期にいじめや家庭崩壊,無視,虐待などの逆境を体験すると後に精神病性障害を発症しやすくなるという研究は多いが,研究間の較差や未解決の疑問が存在する。まず,方法論的に頑強な研究(前方視的研究や大規模研究など)の多くで標的とされているのは抑うつ気分・不安・希死念慮と併存する低レベルの精神病的体験であるが,これらがどの程度精神病性障害に発展するのか不明である。更に,逆境の種類,体験した時期,重篤度の次元からの影響を調査した研究は少ない。著者らは小児期の逆境と精神病研究[Childhood Adversity and Psychosis(CAPsy) study]を行い,これらの較差を同定し,逆境の範囲と精神病性障害との詳細な関連を調査した。

方法

CAPsy研究は2010~2014年に施行された症例対照研究である。症例はロンドン南東部に住む18~64歳の,精神病性障害[ICD-10のF20~29,F30~33(精神病症状を伴う,即ち感情精神病affective psychosis)]の初回エピソードが出現した患者で,対照は同地域・同年齢層の者から抽出した。

17歳以前の逆境に関するデータは,半構造化面接である幼少期のケアと虐待の経験票[Childhood Experience of Care and Abuse(CECA)schedule]と,いじめ質問票(Bullying Questionnaire)改変版を用いて収集した。本研究では,逆境の型としては家庭不和,心理的・身体的・性的虐待,いじめを対象とし,重篤度は「なし」「少」「中等度」「顕著」の4段階で評価した。

結果

症例は374名,対照は301名であった。中等度及び顕著な逆境があった者は症例群に多く,どの型の逆境も,年齢・性別・民族からは独立して,精神病性障害のオッズ上昇と関連していた。調整オッズ比(aOR)はいじめの1.43から心理的虐待の3.95まで型によって幅があった。この影響は非感情精神病と感情精神病,男性と女性,30歳未満と30歳以上とでほぼ同等であった。

最初の逆境体験の年齢区分で比較すると,青年期で体験した者は小児期で体験した者より精神病性障害のaORは高く,性的虐待では6.4 vs 2.4,いじめでは1.8 vs 1.2,身体的虐待では3.6 vs 2.1であった。家庭不和と心理的虐待の影響は小児期と青年期で同等であった。

複数の逆境による累積的影響は,症例群と対照群の両方で認められたが,対照群では関連は弱く,性的虐待は身体的虐待とのみ関連していた。対照群と比較して,症例群ではより多くの逆境を体験していることが示され,逆境が一つ増えるごとに精神病のオッズは平均約50%上昇した。

逆境の重篤度による影響については,重篤な逆境で影響が最大になるという強いエビデンスが示された(表)。たとえば,家庭不和(家庭内暴力を含まない)では有意な関連は認められなかったが,家庭内暴力では強い相関が認められた[aOR=4.4,95%信頼区間(CI):2.4-8.2]。同様に,いじめでは,身体的暴行を伴う最も重篤な型で有意な影響が認められた(aOR=1.9,95%CI:1.0-3.6)。心理的・身体的・性的虐待の重篤な型ではORは3.7~5.6であった。少なくとも一つの型の重篤な逆境にさらされた者は,症例群の42%(99名),対照群の16%(46名)であった(aOR=3.80,95%CI:2.23-6.48)。

考察

本研究の限界として,逆境の想起が事実と異なる可能性があること,逆境を経験した対照群の参加が消極的なため,集団における逆境経験者の割合が過小評価される可能性があること,サンプルサイズが小さいこと,交絡因子の調整が不十分であることが挙げられる。

結論

本研究の結果は過去の知見を拡張するものであり,脅迫,敵意,暴力を含む重篤な逆境の特異性を示している。

2021年02月 [no.1(247号)]

表.小児期の逆境と精神病性障害(全体と年齢別)の要約a,b

(久江 洋企)

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