初回エピソード精神病とクロザピン投与中の治療抵抗性統合失調症における抗N-メチル-D-アスパラギン酸受容体脳炎の罹患率,全住民ベースの研究

SCHIZOPHR RES, 222, 455-461, 2020 Prevalence of N-Methyl-<SUB>D</SUB>-Aspartate Receptor Antibody (NMDAR-Ab) Encephalitis in Patients With First Episode Psychosis and Treatment Resistant Schizophrenia on Clozapine, a Population Based Study. Kelleher, E., McNamara, P., Dunne, J.,. et al.

背景

抗N-メチル-D-アスパラギン酸(NMDA)受容体脳炎は多彩な病状を持つ脳炎の一つであり,NMDA受容体のGluN1サブユニットを標的とする抗体によって引き起こされる。同疾患では典型的に精神病症状をきたすことが知られており,75%以上の症例で精神病症状が神経症状(認知機能障害,てんかん発作,運動障害,緊張病など)に先行することが知られている。脳波では90%に異常が認められ,広汎性で緩徐なまたは無秩序な活動,てんかん様の活動,過剰なデルタ活動などが散見される。また,核磁気共鳴画像法(MRI)では33~55%に異常が認められ,髄液検査ではリンパ球の上昇の所見が80%程度,その他にはタンパク濃度の上昇が60%の患者で認められる。NMDA受容体抗体の存在は卵巣奇形腫をはじめとした悪性疾患の存在を示唆している。

稀ではあるが,精神症状のみを呈する患者も存在することが報告されている。早期治療は機能的及び認知的予後を改善させることが知られており,初回エピソード精神病(FEP)におけるスクリーニング目的での血液検査は有用である。

2016年のコンセンサスガイドラインでは,抗NMDA受容体脳炎を疑う所見としては複数の神経及び精神症状,脳波・MRI・髄液による補助的な所見があること,確定診断としては上記に加え抗GluN1 IgG抗体が髄液中に存在することとされている。

また,様々な統合失調症に関する疫学研究において,自己免疫性疾患の存在が示唆されている。近年ではFEPに加えて治療抵抗性統合失調症(TRS)においても自己抗体のスクリーニングが勧められるようになってきている。統合失調症の約3割は治療抵抗性と言われているが,抗NMDA受容体脳炎は抗精神病薬への反応性は乏しいとされており,TRSの一定数が抗NMDA受容体脳炎によるものである可能性は否定できない。

著者らは,精神科を受診した全てのFEP患者及びTRS患者に抗NMDA受容体脳炎のスクリーニングを行い,疫学的な検討を行った。

方法

被験者の募集は,St James病院及びTallaght大学病院(ダブリン),Newcastle病院(Wicklow,総人口約264,000人)が属する診療圏内の,一般成人精神科医療を提供する医療機関にて行った。FEPの診断基準は,これまでに精神病で医療機関を受診したことのない,精神病症状を呈する被験者とし,TRSの診断基準は英国国立医療技術評価機構(NICE)ガイドラインに拠った。

全ての被験者から血液検体を採取し,L-CBA法を用いて抗NMDA受容体抗体を計測し,そこで陽性となった被験者全員に様々な追加の臨床検査(神経診察,MRI,脳波,髄液検査,悪性疾患のスクリーニング)を行った。抗NMDA受容体脳炎の診断はGrausら(2016)のガイドラインに則った。

結果

215名の被験者のうち3名が脱落し,最終的にFEP 112名,TRS 100名が組み入れられた。血液検査によるスクリーニングで陽性となったのは,112名のFEPのうち4名,100名のTRSのうち1名であった。FEPのうち抗NMDA受容体脳炎の疑い及び確定診断はそれぞれ1名で,TRSでは抗NMDA受容体脳炎の診断基準を満たす症例はなかった。これらの5名の詳細を表に示す。

結語

本研究はリアルワールド臨床研究であり,精神科の受診者において抗NMDA受容体脳炎は稀であることが示された。

2021年02月 [no.1(247号)]

表.抗体検査陽性例における、抗NMDA受容体脳炎診断基準の適応

(和田 真孝)

このウィンドウを閉じる際には、ブラウザの「閉じる」ボタンを押してください。