治療抵抗性精神病における治療開始・維持のための筋肉内クロザピン処方:後方視的研究

BR J PSYCHIATRY, 217, 506-513, 2020 A Retrospective Study of Intramuscular Clozapine Prescription for Treatment Initiation and Maintenance in Treatment-Resistant Psychosis. Casetta, C., Oloyede, E., Whiskey, E., et al.

背景と目的

クロザピン(CLZ)は他の抗精神病薬で寛解に至らなかった患者において50~75%の奏効率を示し,全死因死亡率,暴力的犯罪,再入院率などの指標でも良好な転帰を示すが,臨床現場においては十分に活用されていない。

治療抵抗性の患者が精神病症状のためにCLZや関連する検査を拒否することは多い。治療に協力的でない患者に対する治療法として経口投与は現実的でなく,強制的薬物治療にCLZが使用されることはほとんどない。本研究では,South London and Maudsley NHS Foundation Trust(SLaM)における短時間作用型筋内クロザピン注射剤*(imCLZ)の3年間の経験を紹介する。

方法

SLaMの観察データを用いて,経口クロザピン(poCLZ)を開始するための短期的な方法としてimCLZを処方された患者コホートを調査した。本プロトコールではimCLZ処方後に,投与の都度,患者が希望する投与経路について聴取し,経口が拒否された場合の最後の手段としてのみimCLZを行った。

本研究にはimCLZコホートとして2016年6月~2019年3月の間にSLaM内でimCLZを処方された全患者が含まれ,最大2年間の追跡調査が行われた。また,対照群は2007年1月~2011年12月の間に同施設でpoCLZを開始した,治療抵抗性精神病性障害と診断されている患者とした。

主要評価項目として,imCLZ処方後にpoCLZ開始に成功した患者の割合を算出した。また,imCLZコホートと対照群におけるCLZ処方開始から中止までの時間を,Cox回帰分析を用いて比較した。

結果

imCLZコホートには治療抵抗性精神病性障害の39名が含まれた。そのうち,19名は少なくとも1回のimCLZ投与を受けたが,20名は二つの選択肢を強制された場合に経口投与を受け入れた。2回以上のimCLZを受けた患者14名のうち,7名(50%)は連続したimCLZを受けていた。imCLZに際して身体拘束が必要だったのは9名(47%)で,そのうち4名では2回以上の身体拘束が行われた。

imCLZコホートのうち,36名(92%)は最終的にpoCLZ開始に成功し,少なくとも1回のimCLZ投与を受けた19名に関しても,最終的には16名(84%)がpoCLZを開始した。最後までpoCLZが開始できなかった3名は,経口投与を拒否し続けるか,副作用(好中球減少症,再発性肺炎)のためにimCLZを中止した。poCLZに移行するまでのimCLZ日数の中央値は 2 日間で,poCLZ移行が成功するまでに要した最大のimCLZ回数は47回であった。poCLZ開始後2年間における中止率は,imCLZコホートが対照群よりも低く(それぞれ24%,50%),CLZ中止のハザード比(HR)も有意に低下したが[0.39,95%信頼区間(CI):0.19-0.80],傾向スコアで調整後は有意ではなかった(0.39,95%CI:0.14-1.06)。imCLZコホート全体では,8名(20%)が追跡調査期間中にpoCLZを中止した。4名(10%)がアドヒアランス不良または不明な理由,4名が筋肉内製剤とは無関係な副作用(10%)が原因(好中球減少症,再発性肺炎)で中止した。

結論

imCLZ処方により多くの患者においてpoCLZへの移行が可能となり,その後のCLZ継続に関してもimCLZを用いない場合と同程度であった。

本研究の結果は,サンプルサイズが小さいために予備的なものではあるが,imCLZは通常では導入が困難であった症例に対してもpoCLZを利用できるようにするために有効な手段であることを示唆している。

*日本国内では未発売

2021年02月 [no.1(247号)]

(内田 貴仁)

このウィンドウを閉じる際には、ブラウザの「閉じる」ボタンを押してください。