運動とうつ病の予防:HUNTコホート研究の結果

AM J PSYCHIATRY, 175, 28-36, 2018 Exercise and the Prevention of Depression: Results of the HUNT Cohort Study. HARVEY, S. B., ØVERLAND, S., HATCH, S. L., et al.

背景と目的

運動不足のような生活習慣に関する因子が,うつ病や不安症を予防するための戦略のターゲットとなり得るというエビデンスがいくつか見られるようになってきているが,これまでの研究結果では,運動と抑うつや不安との関係についてはっきりとした結論が得られていない。本研究は,(1)運動がうつ病や不安症の新たな発症を予防するかどうか,(2)もし予防するのであれば,予防効果を得るのに必要な運動の強度及び総量はどの程度なのか,(3)運動とその後のうつ病や不安症との関連の根底にあるメカニズムは何なのか,という三つの疑問への答えを出すことを目的とした。

方法

HUNT研究(Health Study of Nord-Trøndelag County)は,これまでに行われた中でも最も大規模かつ包括的な全住民ベースの健康調査の一つであり,1984年1月~1986年2月の第1相(HUNT 1相)において,ノルウェーのヌール・トロンデラーグ県の20歳以上の全住民から参加者を集め,1995年8月~1997年6月の第2相(HUNT 2相)で全参加者の9~13年後を前方視的に追跡調査したものである。このHUNT研究のデータの中から,HUNT 1相(基準時点)において身体疾患がなく,うつ病や不安症の症状がない「健康な」コホートを選び出し,HUNT 1相での運動の頻度や強度のデータと,HUNT 2相でのうつ病や不安症の症状のデータを,交絡因子,仲介因子となり得る様々な因子についてのデータと併せて解析を行った。

結果

基準時点での1週間当たりの総運動時間と将来のうつ病のリスクとの間には逆相関が認められた(p=0.001)が,不安については基準時点の総運動時間にかかわらずリスクは同程度(p=0.21)であった。

この予防効果のほとんどは比較的低いレベルの運動でも認められており,1週間当たりの運動時間が1時間を超えても追加的な効果は認められなかった。また,運動強度による相互作用を示すエビデンスも認められなかった(p=0.96)。

交絡因子を調整した後に,観察された関連に因果関係があると想定した場合,人口寄与割合からは,もし全参加者が少なくとも週に1時間以上身体活動を行っていたとすれば,将来のうつ病症例の12%が予防できていたであろうことが示唆された。運動により得られた社会的・身体的健康利益は,うつ病に対する予防効果のごく一部しか説明できなかった。副交感神経である迷走神経の緊張の変化といった,これまでに提唱されている生物学的メカニズムは,うつ病の予防には関係していないようであった。

結論

定期的な余暇時の運動は,いかなる強度であっても,将来におけるうつ病の発症を予防するが,不安症に対する予防効果は認められない。本研究の結果からは,集団レベルで見れば,1週間当たりで費やす運動時間の増加は,比較的小さいものであっても,公衆の精神衛生上の重要な利益をもたらし,うつ病の新たな発症を相当数予防できる可能性があることが示唆される。

(赤石 怜)

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