N ENGL J MED, 375, 1660-1670, 2016 Hepatic Encephalopathy. WIJDICKS, E. F. M.

肝性脳症と高アンモニア血症

肝性脳症の病態生理は完全には解明されていない。腸内細菌叢と粘膜酵素がタンパクを分解し,腸管内にアンモニアを産生する。アンモニアは門脈により肝臓に運ばれ,尿素に変換される。肝不全においては,アンモニアが蓄積し,体循環に入る。慢性肝障害の患者においてアンモニアは,中枢神経の機能を障害することで肝性脳症を発症させる一方,劇症肝炎のように急速にアンモニアが増えた場合には脳浮腫を起こす。肝性脳症ではγアミノ酪酸(GABA)受容体の関与が指摘されており,フルマゼニルが脳波所見や臨床所見を改善することがあるが,頻度はそれほど高くなく,効果も一過性である。アンモニア以外にも,マンガン,メルカプタン,短鎖脂肪酸,グルタミンニューロンの機能低下,乳酸,ドパミン代謝産物等の関与も指摘されている。アンモニアは肝性脳症の主因であるが,長期罹患している肝硬変患者では,アンモニアが上昇していても肝性脳症を発症しないこともある。

臨床像

肝性脳症の重症度の分類には,West Haven基準とFOUR Scoreが用いられている。1/3の患者では痙攣を発症する。肝性脳症には,神経心理学的検査でのみ異常が発見される軽微な症状のものもある。軽症では転倒,運転能力の低下,疲労,興味の消失,集中力の欠如,社会経済的な問題などを起こすことがある。しかしながら,これらは非特異的な症状であり,認知機能を悪化させ得る全身倦怠感,虚弱,アルコールの影響などと区別することは困難である。

グレード3,4の肝性脳症では注意の変動,応答の遅延などが典型的であり,記憶の機能としては記銘・保持・再生が共に障害され,数唱は顕著に悪化する。更に進行すると,反応がなくなり,昏迷状態となる。この段階では頻呼吸となり,呼吸性アルカローシスを呈する。グレード3,4の肝性脳症では瞳孔は散大し,対光反射は鈍くなるが,頭位変換眼球反射は保たれる。固縮,パラトニア,伸展肢位や把握反射も見られることがある。Jactitation(落ち着かなく動き回るなど)やミオクローヌス,ジスキネジアやパーキンソン症状が出現し得る。

電気生理学的特徴

脳波的な特徴としては速波の非同期,周波数の変化,徐波の増加などがある。三相波はグレード2,3では見られるが,昏睡状態になると消失する。肝性脳症における脳波の測定は,非痙攣性てんかん重積との鑑別に重要である。

鑑別診断

ウェルニッケ–コルサコフ症候群,アルコール離脱せん妄,低血糖,低ナトリウム血症,代謝性アルカローシス,非痙攣性てんかん重積,慢性または急性硬膜下血腫などが鑑別となる。特に非痙攣性てんかん重積は,三相波がてんかん波と類似しており,鑑別は難しい。

治療

肝性脳症における初期治療のゴールは,ラクツロースを用いて腸管からのアンモニアの吸収を抑制することである。再発性の肝性脳症に対しては腸内細菌叢の改善を目的に,rifaximinが併用される。また,感染,消化管出血,脱水,低ナトリウム血症など,肝性脳症の誘因となったものを改善することが必要である。再発性の脳症では,アンモニア値と脳症の症状との関連は薄くなる。

劇症肝炎において,アンモニア値が255~340μg/dLは脳浮腫の危険因子であり,管理が重要である。脳浮腫治療としては30度のベッド拳上,CO2濃度を20~25mmHgに調整すること,マンニトールや高張食塩水の投与が行われる。

慢性の肝性脳症ではラクツロースが治療の中心であるのに対して,劇症肝炎による肝性脳症では脳浮腫の治療が中心になる。重症の患者では肝移植が考慮される。

*日本国内では未発売

(石田 琢人)

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