デジタル聴診、遠隔モニタリング、テレプレゼンス……パンデミックで普及が加速、遠隔診療の最前線

デジタル聴診、遠隔モニタリング、テレプレゼンス……パンデミックで普及が加速、遠隔診療の最前線

イメージ画像:遠隔で治療をする医師

新型コロナウイルス感染症によるパンデミックが世界を襲った、2020年。感染拡大を防止するため、遠隔診療が一気に普及した年でもありました。

そこで今回の記事では、5Gから遠隔モニタリングやテレプレゼンス、そしてAR / VRまで、医療機関や研究機関、スタートアップによる最新の活用事例をレポート。広くあまねく人々に高いクオリティの医療サービスを提供できる未来に向けて、「遠隔診療」を普及させるためのカギを探ります。

パンデミックに対応するため、国内外で遠隔診療が急増

イメージ画像:感染を引き起こすウイルス

パンデミックの影響で、遠隔診療を取り巻く外部環境は大きく変わっています。

日本ではもともと、医師法により無診察診療の禁止が定められていました1)。そのため、約50年から遠隔診療の萌芽はあったものの、通信速度の制限もあり、近年まで読影を中心とした画像診断サービスにとどまっていました2)

しかし、厚生労働省は2015年、遠隔診療の対象を明確に例示3)。2018年には「かかりつけ医機能」を強化・推進するため、再診のみオンラインや電話での診療(オンライン診療)による保険診療を認めるなど、一定のルール整備が行われ、遠隔診療の適切な実施と普及へ向け動きはじめていました4)

その動きが一気に加速したのが、2020年です。新型コロナウイルス感染症の感染拡大を防ぐため、遠隔診療にまつわる規制緩和が一気に進みました。2020年4月には、国内でオンラインによる初診が時限的に解禁5)

アメリカにおいても、2020年は遠隔診療の普及において大きな転換点となりました。感染拡大が深刻化してから、遠隔診療サービスの利用者数が一気に増えています。

調査会社CivicScienceによると、2020年2月に「遠隔医療サービスを利用したことがある」と答えたのは回答者の11%だったものの、同年3月には17%となっており、1カ月で6ポイントも増加6)。さらに2020年3月2日から4月14日までの間に、遠隔医療の訪問数は1日あたり102.4から801.6に急増しました(*1)7)

こうした変化を受けて、病院やクリニックはこれまで以上に遠隔診療技術に投資し、サービスを拡充する傾向にあります。民間保険会社や公的医療保険も、バーチャル・ケアに対して医療機関に診療報酬を支払えるよう、保険の適用範囲を広げました8)

1)日本医師会(https://www.med.or.jp/dl-med/doctor/member/kiso/b11.pdf)

2)MEDIUS(https://www.medius.co.jp/asourcetimes/10-3/)

3)「情報通信機器を用いた診療(いわゆる「遠隔診療」)について」(厚生労働省)(https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10800000-Iseikyoku/0000094452.pdf)

4)MEDIUS(https://www.medius.co.jp/asourcetimes/10-3/)

5)日経メディカル(https://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/report/t344/202004/565122.html)

6)Business Insider Japan(https://www.businessinsider.jp/post-219556)

7)Europe PMC(http://europepmc.org/article/MED/32324855)

8)Business Insider Japan(https://www.businessinsider.jp/post-219556)

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4K映像、デジタル聴診……模索される5G活用

イメージ画像:デジタル技術が実装された都市

遠隔診療の普及は、それを支援するテクノロジーにも後押しされています。国内では、医療機関や研究機関、企業が担い手となり、5G技術の活用が模索されています。

2020年3月から、商用サービスが始まった5G。遠隔診療の分野でも、高速化・大容量化によって4K・8K映像をリアルタイムで伝送できるようになったり、低遅延化によって機械の遠隔操作がスムーズになったり、多接続化・IoT化によって取得できる情報量が増えたりすることに注目が集まっています9)

こうしてAI活用、ビッグデータ活用、生体情報の取得・活用が一気に進展する可能性があるため、54Kカメラを使用した、超音波画像検査(腹部エコー)などの遠隔診療や遠隔リハビリ指導など、5Gを活用したさまざまな技術に期待が寄せられています。

また厚生労働省10)では、医療過疎地域や離島医療など、医療アクセス困難地域と都市部の病院とを結ぶ「D to P with N」型に基づく拠点間での運用や、かかりつけ医だけでは判断が難しい場合など、どんな診療所でも専門医のサポートが受けられる「D to P with D」型などの実施に関して検討されています11)

9)日本医療機器テクノロジー協会(https://www.mtjapan.or.jp/jp/mtj/cn/pdf/hospeq2019/jp_01.pdf)

10)オンライン診療の適切な実施に関する指針の見直しに関する検討会(厚生労働省)(https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/other-isei_513005_00001.html)

11)オンライン診療の適切な実施に関する指針の見直しに関する検討会「第三回議事録」(厚生労働省)(https://www.mhlw.go.jp/content/000501102.pdf)

遠隔モニタリング、テレプレゼンスの活用に挑む国外スタートアップ

イメージ画像:遠隔によるモニタリング

国外では、遠隔モニタリングとテレプレゼンスといった技術の社会実装に取り組むスタートアップが現れ始めています。

ICUを遠隔診療化する「CEIBA TELE ICU」

2015年に設立されたトルコのスタートアップCEIBA TELE ICU12)は、患者の身体状態を常時モニタリングすることで、ICU(集中治療室)での診療を遠隔化するAIプラットフォームを開発しています。患者の状態をスコアリングし、患者の症状が悪化したり、その兆候が出てきたりしたときに通知します。専用の双方向プラットフォームを介して病院の監視システムと統合されるため、追加のハードウェアも不要です。

12)CEIBA TELE ICU(https://www.ceibateleicu.com/)

遠隔モニタリングを支援する「Think Biosolution」

2016年に設立されたアイルランドのスタートアップThink Biosolution13)は、遠隔診療のための遠隔モニタリングプラットフォームを提供しています。光学式生体センサー、温度センサー、モーションセンサー、GPS、Bluetooth、触覚フィードバックシステムを搭載する、専用のウェアラブルデバイス「QuasaR」を開発。光学式生体センサーは、心拍数、心拍変動、呼吸数、および血中酸素飽和度を測定します。また、専用デバイス、モバイルアプリ、電子健康記録(EHR)ダッシュボードを接続。医師は患者の身体状態や行動を定期的に確認できます。

13)Think Biosolution(https://www.thinkbiosolution.com/)

テレプレゼンスプラットフォームを提供する「Lumed」

テレプレゼンスとは、遠隔地において、あたかも現場にいるかのような臨場感を提供する技術の総称です。メキシコのスタートアップLumed14)は、医療専門家向けの遠隔診療ソリューションを提供しています。医師はテレプレゼンスを通じて、患者と直接かつリアルタイムにコミュニケーションが取れます。

14)Lumed(https://www.lumed.com/)

AR/VR技術は遠隔診療を後押しするか

イメージ画像:VR技術を用いる医師

5Gや遠隔モニタリング、テレプレゼンスに加えて、遠隔診療においてさらなる活用が期待されるテクノロジーとして、AR/VR技術があります。残念ながら、未だ明確な実用化事例は少ないですが、研究レベルでは活用が模索されているケースも見られます。

たとえば、ARとVRを組み合わせ、患者の3D映像を遠隔地にいる医師にリアルタイム送信する研究があります(*2)15)。デプスカメラ、プロジェクター、3Dディスプレイを活用し、RGB-Dビデオを送信するというもの。医師の診察の正確性向上に加え、介護者への指示も明確になることが期待されています。

また、別記事で詳しく紹介したように、遠隔手術を可能にするARテクノロジーやVRを活用した医療トレーニングなども現れ始めています。

こうした技術活用が進展すれば、遠隔地からでも、実地の診察に近いレベルでコミュニケーションを取れるようになるかもしれません。詳細な3Dデータを患者側が簡単に取り込み、なおかつ医師にリアルタイムかつ正確に送信できるような技術環境を実現することがカギとなるでしょう。

15)ResearchGate(https://www.researchgate.net/publication/311990105_Augmented_Telemedicine_Platform_for_Real-Time_Remote_Medical_Consultation)

あまねく人々に質の高い医療を

イメージ画像:遠隔での診断をする医師

遠隔診療をより一層普及させていくにあたっては、医療責任の所在や診療報酬の体系の見直し、プライバシーやセキュリティの問題など、技術的なハードル以外にも、乗り越えるべき課題は少なくありません。

また、医師に求められる役割やスキルも変わっていくはずです。遠隔診療が普及した未来における医師には、専門分野における正確な医療知識はもちろん、適切なテクノロジーを活用して最適な診療をコーディネートするスキルが求められるようになるでしょう。

パンデミックによるオンライン化の進展にも後押しされ、遠隔診療の普及は避けられない未来。遠隔診療がより普及することで、あらゆる地域の、広くあまねく人々に高いクオリティの医療サービスを届けられる日は、そう遠くないかもしれません。

<出典>
*1
Mann DM, Chen J, Chunara R, Testa PA, Nov O. COVID-19 transforms health care through telemedicine: Evidence from the field. Journal of the American Medical Informatics Association : JAMIA. 2020 Jul;27(7):1132-1135. DOI: 10.1093/jamia/ocaa072.

*2
Antón, David & Kurillo, Gregorij & Yang, Allen & Bajcsy, Ruzena. (2017). Augmented Telemedicine Platform for Real-Time Remote Medical Consultation. 77-89. 10.1007/978-3-319-51811-4_7.