【75歳以上の2割負担】370万人対象の「年収200万円以上」で決着も、財政効果は1%強に

提供:メディキャスト株式会社
執筆:2020年12月25日

後期高齢者医療を支える現役世代の負担は5年後に1.4兆円増―。保険財政上の喫緊の課題に対し、75歳以上の応能負担の強化に向け、一定所得以上の人の自己負担を2割に引き上げるというのが政府方針だ。最大の焦点である所得の線引きは調整が難航し、最終的に与党トップ会談で「年収200万円以上」で決着した。

後期高齢者医療費の4割は現役負担

医療界は限定的、経済界はより広範

少子高齢化の進展により、2025年に団塊の世代すべてが75歳以上に達し、その後40年にかけて高齢者人口の増加は緩やかになる一方で、「現役世代の減少が加速」という新たな局面を迎える。後期高齢者の医療費(患者負担を除く)は、その4割を現役世代で賄っており、この人口構造の変化は保険財政に大きなインパクトを持つ。

そのため、政府の全世代型社会保障検討会議は昨年12月の中間報告に、医療保険制度の持続可能性の確保に向け、75歳以上で一定所得のある人の自己負担を1割から2割に引き上げる方針を明記。所得の線引きは今年6月に最終決定される予定だったが、新型コロナウイルス感染拡大の影響で今年末に先送りされ、10月に入って再び議論が動き出していた。

議論の再開後、厚生労働省が2割負担の対象範囲を「年収240万円以上の約200万人」で検討していることが明らかになると、財務省や経済界は財政効果を高めるため、範囲をより広くするよう主張。これに対し、医療界はコロナ禍でのさらなる受診抑制への懸念から限定的にするよう求め、意見は対立していた。

厚労省の基準案、最少範囲は200万人

一般区分なら約半数、945万人が対象

そうしたなか、厚労省は11月19日開催の社会保障審議会・医療保険部会に、対象範囲の5つの選択肢案を示した(図表1)。

厚労省案は、後期高齢者に占める割合として、「介護保険の2割負担対象者」と同等の上位20%から、「本人に住民税の負担能力が認められる水準」の上位44%まで、仮に5段階の所得基準を示したもの。上位20%で対象者は最少の約200万人、上位44%で最多の約605万人となる。今回の制度改正の趣旨である「現役世代の負担軽減」を考えれば、もちろん対象者が多いほど効果は高い。

これに対する委員の意見としては、「上位25%まで」と「あくまでも慎重に」を合わせると、抑制的な考え方が多数派。一方で、「低所得者に配慮しつつ、原則2割」という強硬な意見のほか、高額療養費の「一般区分」が選択肢にないことを疑問視し、それを対象にすべきとの指摘もあった。一般区分を2割負担とした場合は、後期高齢者の約52%、約945万人と、さらに対象が広がる。

図表1 所得基準として考えられる機械的な選択肢
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図表1 所得基準として考えられる機械的な選択肢

(出典)社会保障審議会・医療保険部会(第134回 11/19)《厚生労働省》(資料1 p4)

現役の負担軽減は最大でも2%強

「だからこそ」か「そのために」か

現役世代の負担とは、保険料から拠出する「高齢者支援金」を意味するが、後期高齢者の原則1割負担を維持した場合、今後5年で1.4兆円も増加する見込み。厚労省が11月26日の医療保険部会に示した試算によると、2020年度の6.8兆円が25年度には8.2兆円に膨らむ。それに対し、2割への引き上げによる抑制効果としては、対象者を最少とする上位20%の場合で▲600億円、最多とする上位44%で▲1,800億円(図表2)だ。

このように、厚労省案の負担軽減効果は最大でも2%強にとどまる。医療保険部会では、“だからこそ”最低でも一般区分を対象にすべきとの声があった一方、“そのために”高齢者に追い打ちをかけてよいのかなどと慎重論も根強く、議論は平行線をたどった。

政府は全世代型社会保障検討会議での政治決着を図ったが、菅首相が「年収170万円以上」の意向を示したのに対し、今度は公明党が「240万円以上」を主張し、調整が難航。12月に入り同会議の開催は2回延期され、最終的に9日の自公トップ会談で歩み寄り、「200万円以上」で決着した。対象者は3番目に多い約370万人で、削減効果は25年度に1.3%程度となる。導入時期は22年度後半で調整される見通しだ。

なお、厚労省は2割負担になる人の急激な負担増を抑制するため、負担増加額を最大で月4,500円に抑える時限的な配慮措置(図表3)を講じる考えを示しているが、トップ会談の結果では「3,000円」とも報じられている。

図表2 後期高齢者支援金の伸びと改正効果
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図表2 後期高齢者支援金の伸びと改正効果

(出典)社会保障審議会・医療保険部会(第135回 11/26)《厚生労働省》(資料1 p4)

図表3 配慮措置の考え方(案)
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図表3 配慮措置の考え方(案)

(出典)社会保障審議会・医療保険部会(第134回 11/19)《厚生労働省》(資料1 p9)

給付は高齢者、負担は現役世代中心

保険制度の持続へGEもさらに促進

給付は高齢者中心、負担は現役世代中心という構図を改めることが必要―。全世代型社会保障検討会議で、麻生財務相はこう発言している。患者の年齢が上がるにつれて負担割合が低くなり、保険給付は広がる現在の仕組みを見直す、つまり給付と負担の不均衡を是正することが、2割負担導入の目的だ。財務省の財政制度等審議会がまとめた21年度予算編成に関する建議でも、給付のあり方を見直す制度改革の必要性を強調(図表4)。可能な限り広範囲な8割給付(2割負担)の導入を主張していた。

建議ではこのほか、医療保険制度の持続可能性確保に必要な改革の視点から、薬剤費の適正化も引き続き重要課題に挙げている。そのなかで、後発医薬品のさらなる使用促進に向けては、▽新たな目標値の設定▽バイオシミラー(バイオ医薬品の後続品)使用促進のための数量目標の設定▽医療機関別の後発品使用割合の公表▽国によるフォーミュラリ・ガイドラインの策定と後発医薬品選定基準の設定▽「後発医薬品調剤体制加算」(薬局の約6割が算定)のあり方の見直し―を求めている。

図表4 後期高齢者の患者負担割合のあり方
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図表4 後期高齢者の患者負担割合のあり方

(出典)財政制度等審議会・令和3年度予算の編成等に関する建議(11/25)《財務省》(資料Ⅱ-1-8)