【POINT.1】一人の糖尿病専門医との出会いをきっかけに“在宅医療”に取り組む

八鍬 紘治 氏日本調剤株式会社 東北支店 在宅医療部

実際の生活環境から見える個々の“薬物療法”や“食生活”の課題に対応

私が在宅医療に最も関わっていたのは、秋田県・本荘薬局の管理薬剤師、秋田県と青森県のエリアマネージャーだった2018年3月頃までですが、2021年1月現在、東北支店在宅医療部での業務を行いつつ、秋田県で数人、宮城県の介護施設では約40人の患者さんを担当しています。宮城県では担当施設に訪問診療医と同行し、処方提案や薬剤調整を行っています。別途、在宅訪問時にお薬をお持ちし、服薬状況や生活状況に合わせて服薬カレンダーをセットするなど患者さん個々の状況に対応しています。

糖尿病療養中の患者さんに対する在宅医療に取り組んだきっかけですが、約8年前に本荘薬局へ異動したときの糖尿病専門医との出会いでした。その先生は総合病院の勤務医でしたが、外来診察だけでなく週に1回訪問診療をされていました。

本荘薬局では糖尿病の患者さんが比較的多く、薬が増えてもなかなか血糖コントロールがうまくいかない方が多数おりました。「本当に医師の指示通りにお薬が飲めているのかな?」「食事はどのようなものを食べているのだろうか?」と非常に気になっていました。

出会った先生が、たまたま本荘薬局に来られた際に「糖尿病療養において薬剤師ともっと連携したい」と話されました。当時、私にはまったく在宅訪問の経験はなかったのですが、その必要性を強く感じていましたので「在宅訪問に是非取り組みたい」と伝え、後に在宅訪問を開始するのにつながりました。

「適正使用」と塩分制限など生活改善で長年のインスリン使用を中止

これまで糖尿病療養中の在宅患者さんに限ると、30人近く介入してきました。そのなかで2つの事例が大きく印象に残っています。

1例目は今(2021年1月)でも担当させていただいていますが、80代の男性で糖尿病と診断された15年ほど前からインスリンを使用。治療を開始してから一度もHbA1cが8.0%未満になったことがありませんでした。その患者さんが、退院するタイミングでインスリンの適正使用、塩分制限、バイタルサインの確認などを焦点に医師から訪問依頼が入りました。

実際に自宅にうかがってみると、インスリンは室内で保管され食事も一日2食でした。また糖尿病性腎症も併発していましたが、ご本人はなかなか実感がわかず、奥様に過剰な塩分が腎臓の負担になるなど丁寧に説明し、ご協力をいただきました。一日3食、減塩など食生活を改善し、適正使用を支援するなかで血糖値は低下、腎機能も安定し1年半くらいでインスリンを中止することができました。今は経口剤とGLP-1製剤で血糖コントロールできています。内服薬も9種類から6種類に減薬できました。外出時におけるインスリン注射使用がなくなったことや低血糖リスク回避などにより負担軽減につながり、ご本人だけでなくご家族にも喜んでいただきました。

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症例1 医療保険による訪問薬剤指導

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症例1 訪問薬剤指導で介入後の結果

もう一例は2017年の介入当時80代の独居生活をされていた男性で、血糖コントロール不良が原因で一時的に入院され、血糖コントロール後に退院予定でした。ところが入院中に認知症が悪化、主治医の判断で早期退院となりましたが、ご本人だけではインスリンの自己注射がうまくできず、主治医からは退院後は施設入所が必要になるとのことで、ケアマネージャーに受け入れ施設の手配が依頼されていました。しかし、急な退院だったこともあり、受け入れ施設は見つからず、私と訪問看護師が協力して在宅療養における支援を行うことになりました。

退院直後、訪問看護師には毎日訪問してもらい、血糖値や自己注射に関する情報をいただきました。服薬支援や注射手技指導など私たちの介入が幸いし、段階的に自己注射ができるようになり、本人が希望する自宅での生活を継続することができました。

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症例2 介護保険による訪問薬剤指導

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症例2 訪問薬剤指導で介入後の結果

訪問を開始した当初のHbA1cは10.8%でしたが、介入によりインスリンは2種類から1種類へ、HbA1cも約1年で6.4%まで改善できました。また内服薬は当初15種類でしたが、安定剤や作用が重複する薬剤などを段階的に減薬しただけでなく、訪問診療から外来診察へ移行することができ、医師の負担軽減にもつながりました。

最終的にはお亡くなりになりましたが、私たちが介入しなければ、「最期まで自宅で過ごしたい!」というご本人の強い希望は叶わなかったと考えられる事例です。