【POINT.2】薬剤師が解決策を決めるのではなく、患者さんの決定を手助けする質問・会話が重要

野村 洋介 氏I&H株式会社 阪神調剤薬局 西関東エリア 関東第4ブロック長

大切なのは患者さんに自分の行動を思い返してもらう質問「HbA1cが悪化したことに何か心当たりはありますか?」

患者さんに気付いてもらうための具体的な方法は、ご自分の行動を思い返してもらうことが第一歩です。例えば、HbA1cの数値が悪くなったケースを思い描いてみましょう。血糖値が悪くなった、もしくは食事療法や運動療法などを頑張ってはいるが思った以上には改善しないなどの症例を、多くの薬剤師が経験しているのではないでしょうか。その時、私は、原因となることを患者さん自身に気付いてもらうような質問を行うようにしています。HbA1cは過去2~3カ月間の平均値ですから、その間、日常生活において変化があったのかどうか、その点をお尋ねするようにしています。

そこで、注意しなければならないことは、表面的な数値だけで評価を下してはならないという点です。患者さんから、HbA1cが7.6%だったと聞いたとしましょう。医療従事者の目線では「7.0%より高いので改善したほうが良い」と考え、「もっと歩いたほうが良いですよ」とか「食事は、こうしたほうが良いですよ」と提案しがちです。しかし、患者さんは別の思いを持っているかもしれません。もしかしたら、さまざまな努力を重ねて7.8から7.6に落としたのかもしれませんし、何かの理由があって悪くなってしまったのかもしれません。それは、質問してみなければ分かりません。「何か心当たりがありますか?」と尋ねた回答が「特別ありません」という内容であったとしても、患者さんの頭の中では真剣に考えています。そこで、何か提案するのではなく「何か、思い当たることがあったら、次回にでも教えてください」と次の患者さんの行動変化を待つことが重要だと考えています。

出典:「行列のできる薬剤師 3☆ファーマシストを目指せ!」岡田 浩 著

この尋ねる時は出来る限り、やんわり、ぼやっと聴くようにしています。数値が悪くなった時、多くの患者さんは「また、指導されるのではないか」「看護師さんや先生にも言われたのに、また薬剤師にも何か指導されるのではないか…」と心に壁を作っている場合がほとんどだからです。患者さんの気持ちに負担を掛けないよう、いかにフラットに質問できるかがポイントになります。上から目線になりすぎず、へりくだり過ぎないで接することが、患者さんの心の扉を開き、信頼関係を築くコツかもしれません。

最近、こんなケースがありました。70代の男性患者さんが、元気なさそうに投薬口に来られました。気になりましたので、「どうされましたか?」と尋ねると、HbA1cの数値が良くなかったそうなのです。数値に対する受け止め方などをお尋ねしたところ、2年くらい前までは低糖質の食品を取り寄せていたそうなのですが、最近、経済的な事情もあって取り寄せを止めてしまったそうなのです。『それが理由だったのかもしれないな…』と、患者さんが話をしながら思い返し、気付いておられました。

私は、会話のこのプロセスこそが重要と考えています。その後、暫くたって、再来局されたときには数値が改善していました。恐らく、何か努力されたのでしょう。聞いてみると、以前、糖尿病で入院していたときに食べていた病院食を写真で撮っていたらしく、それを真似してご自身で献立を考え、食事を作ったそうなのです。つまり、患者さんが何かに気付いて、行動を自分で決める。これが治療を継続する最善の方法だと思います。その患者さんは、「野村さんの言うとおりにしたら良くなったよ!」と、話しておられましたが、私は全く何もしていません。提案や指導しなかったからこそ、良い結果に結びついたのだと思います。

あなたは患者さん個々の支援方法について考える時間を持っていますか?

なぜ、エンパワーメント・アプローチが重要かと言えば、医療職が患者さんと関われる時間は限られているからです。月に1回、受診したとしても、医療機関・薬局を含めて患者さんが医療職と関わる時間は1%にも満たないのです。99%以上の時間は患者さんの時間です。つまり1%以下の時間で、99%以上の時間に変化を促そうとしても、それはなかなか難しいのではないでしょうか。ですから患者さん自身に考えてもらい、決定を促すような会話が必要なのです。患者さんが考え、ご自身で決定していく過程を、長い目線で支援していくことがエンパワーメント・アプロ―チのキーポイントだと、私は考えています。

つまり、患者さんの行動変容を促すのは医療者ではなく、医療者と患者さんとの関係性だと私は考えています。患者さん、あるいは薬剤師が何でも言いやすい相互関係を構築し、その上で患者さんが考え行動を決定していく関係ができれば、結果として患者さんにとって大きなメリットが還元されていくのだと思います。その関係性に至る有効な一つの手法が、エンパワーメントだと私は理解しています。

言うまでもなく、患者支援の論理・手法はエンパワーメント・アプローチだけに限りません。さまざまな手法があって良いのです。乱暴な言い方かもしれませんが、薬剤師はどんな手法を選んでも良いのだと思います。ただ、何より重要なのは、支援の仕方について考える時間を持つことだと思います。調剤薬局現場では調剤業務や服薬指導などで忙しい中、薬剤師同士の会話は薬の知識や飲み合わせ、在庫の管理などに終始し、薬剤以外の部分での患者のケアや患者支援の仕方について議論する時間をとることは難しいのが実情です。「こういったコミュニケーションが、この患者さんには向いているのではないかな?」というディスカッションが日常的に行われるようになれば、支援の質も上がっていくでしょうし、患者さんにも喜ばれるのではないでしょうか。すると、仕事も楽しくなるし、薬剤師としてのやりがいやプロフェッショナリズムも磨かれていくと考えています。