【POINT.1】患者さんの行動変容は「指導」ではなく「支援」が不可欠

野村 洋介 氏I&H株式会社 阪神調剤薬局 西関東エリア 関東第4ブロック長

「エンパワーメント・アプローチ」の概念を実践に活かしたことで 患者さんとの信頼関係が向上

2011年、東京都内にある「コトブキ調剤薬局 町田北店」の店長に着任しました。それから2年半の間、糖尿病について集中的に勉強し、介入していた糖尿病患者さんとの応対の中で、有効なコミュニケーションの仕方やアプローチの手法を考え続けました。(この間に3☆ファーマシスト研修にてエンパワーメント・アプローチを学習)その後、複数の薬局を管理するブロック長となり、併せて、多くの糖尿病患者さんと接する機会が得られました。短い会話だけであっても、患者さんが治療に対して前向きに取り組むようになる、患者さんとの心の距離が近くなる等の経験を通じ、患者さんから様々な事を教わることができました。

糖尿病患者さんに私が接する場合、その理論は「糖尿病エンパワーメント」に基づいています。この理論はミシガン大学のボブアンダーソン博士が提唱した概念で、その主旨は、糖尿病管理の責任は患者さんにあるという考えです。ですから、意思決定や行動、そして、それらによってもたらされる結果も、患者さん自身のものであるという考え方です。

出典:「行列のできる薬剤師 3☆ファーマシストを目指せ!」岡田 浩 著

現在(2020年)、京都大学で特定講師をしている岡田浩先生らは2011年に、全国の90薬局を対象に糖尿病患者さんの介入研究(COMPASS研究)を行いました。薬剤師が1回3分程度の短時間でも情報提供や言葉がけをすると、対象群と比べ良好な結果(HbA1cが0.4低下)が示されたことで、薬剤師の介入が有効であることを明らかにしました。私は、この「COMPASS プロジェクト※1」が開催している糖尿病エンパワーメントをロールプレイを通じて体験的に習得する研修(3☆ファーマシスト研修)を2012年に受講しました。研修で学んだ手法を実際に応用していく中で、患者さんとの信頼関係が劇的に変わっていきましたし、接する多くの患者さんが治療に対する意識が高まっていきました。

単なる「共感」はエンパワーメントを低下、 気持ちを前向きにチェンジさせる会話が重要

3☆ファーマシスト研修を受けるまでの数年間、私は患者さんに指導したり、教えたりしてきました。その結果、「どうも、上手くいかないな…」と長い間、感じてきました。

実はこの研修を受講するまで、当時、書籍などを読んで学んだ「傾聴と共感」をすることが糸口であると思って実践に活かそうとしてきました。しかし糖尿病の患者さんから「秋になるとサツマイモをどうしても食べちゃうのよね」とか、「お正月だからお酒を飲んでしまったよ」と言われることに「そうですよね。つい、食べちゃいますよね」とか「つい、飲みたくなりますよね…」と共感をしていても患者さんの行動に全く変化がみられないことにもどかしさや、難しさを感じていました。

これは後から、気づいたことですが、ネガティブな発言に対する共感の言葉は、逆に相手のエンパワーメントを低下させてしまうということでした。共感により患者さんは「それで良いんだ」と受け止めてしまい、生活習慣を変えようとしなくなります。

当時、それを突破させてくれたのがエンパワーメント・アプローチでした。教えるとか、理解させるという指導のアプローチの方法を排除し、患者さん自身に気付いてもらうような会話を心掛け、患者さんのネガティブな発言には前向きになれるような質問に会話を切り換えていきました。先ほどの例で言うなら「ついつい食べ過ぎてしまうとおっしゃるくらい、気を付けておられるのですね?」とか、「正月にお酒を飲みすぎてこの数値なら、もし普段通りの生活なら良くなっていたかもしれないですね?!」というように、本来、必要だった会話は、患者さんの気持ちを前向きにチェンジさせるものだったのかもしれません。