患者さんの「インサイト」とは

消費者インサイトは、消費者の行動の背景にある、ときには消費者自身も意識していない動機やゴールのことです。消費者インサイトを獲得するには、「共感」を使って消費者の考えや気持ち、行動を深く理解することが必要になります。

患者さんのインサイトも同様です。

理解を難しくしているのが「慣れ」の問題です。人間には、ものごとに慣れるほど、細部を理解するスキルが高まっていく反面、大きな構造を理解する力が低くなっていく傾向があります。ヘルスケア業界に当てはめると、ヘルスケア業界に慣れるほど治療や介護に関する専門的な能力が高まっていく反面、患者さんの毎日の生活を理解する能力が低くなっていく、ということになります。【図:1-a】 【図:1-b】

【図:1-a】慣れの図

【図:1-a】慣れの図

【図:1-b】

【図:1-b】

患者さんのインサイトを考える上では、「ジョハリの窓」を使って理解のズレを意識化するのが効果的です。「ジョハリの窓」は、開かれた窓、気づかない窓、隠された窓、閉ざされた窓、の四つの領域に分けて他者との関係で自己への気づきを促すツールです。 【図:2-a】

「ジョハリの窓」はヘルスケアサービスの提供者に、「自分も、患者さんも知っている」領域、「自分は知っているが、患者さんは知らない」領域以外に、「自分は知らないが、患者さんは知っている」領域、「自分も、患者さんも知らない」領域があることを気づかせてくれます。患者さんのインサイトは、これらの2つの領域を使って導き出していきます。

【図:2-a】

【図:2-a】

右上は、「自分は知らないが、患者さんは知っている」領域です。この領域では、自分が持っている専門知識や経験を脇において、「共感」をベースに行動観察やオープンエンドな対話を通じて患者さんの考えや気持ちを深く理解していきます。しばしば、患者さんが医師や看護師に語りたくても語れないこと、語ってはいけないと思っていることの中に患者さんのインサイトが隠れています。

右下は「自分も、患者さんも知らない」領域です。この領域には、ヘルスケアサービスの提供者と患者さんが意識せずに受け入れている「暗黙の前提」が潜んでいます。そのことに気づくために、ヘルスケア以外の業界を観察し、業界外で起こっていることとヘルスケア業界で起こっていることを比較してみます。例えば、リゾートホテルが提供している空間や設備、スタッフ、サービスと、病院が提供しているものとを比較してみます。違いを洗い出し、共有したら、病院のやり方は本当に妥当なものか、必然性があるのか、これまでの業界の常識を疑いながら、患者さんが本当に求めていることを考えます。 【図:2-b】

このように、ヘルスケア業界では常識とされていることを超えて、患者さんがあきらめてしまっていること、我慢しながら受け入れていることを深く理解することで、より深い患者さんのインサイトが得られるようになります。

【図:2-b】

【図:2-b】

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